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幕間「ふたりきりの同窓会」


 用意された客間のドアをノックされ、私――コーネリア・ルッヘンバッハはベッドに横たえていた体を起こした。手櫛で髪を整えて衣服の乱れを確かめる。大丈夫。たぶん。それにしてもこんな夜更けに?  誰が?


「どうぞですわ!」

「失礼する」


 言葉と共に入ってきたのは魔王――サターニア――様だった。


 謁見の間で、「夜に訪ねる」と確かに仰ってはいた。

 でも、


「本当に来やがりましたのね」

「相変わらず言葉遣いがおかしいな、リア」


 昔の呼び名。懐かしい。でも、私は臣下の礼を取った。


「サターニア様、この度は当家の不始末でご迷惑をおかけ――」


 けれど言えたのはそこまでだった。


「なあリアよ、余は見ての通り寝間着姿だ。そしてここは謁見の間ではなく客間なのだ。どうか昔のようにしてもらえぬか?」


 眉を下げて上目遣いに懇願されてしまったから。


「私、その顔をされると断れないんですわ、タニア」

「ふふっ」


 ()()()()()()とは違う無邪気な笑顔でサターニア――タニアは私の胸に飛び込んできた。勢い余ってふたりしてベッドに倒れ込んでしまう。


「タニア、相変わらず甘えん坊さんですわね」

「そんなことはないぞ」

「言行不一致でやがりますわよ。胸に顔を埋めて言うセリフですの?」

「懐かしいのだ。許してくれ、リア」

「よろしくてよ、タニア」


 私は、昔のように、幼年学校の寄宿舎で同室だった頃のように、タニアの髪を撫でた。実家では末娘であるこの私が姉のように振舞う唯一の相手、それがタニアだった。


「少し、痩せましたの?」


 元々華奢な方だったけれど、抱き心地があの頃よりも固い。

 魔王の重責のせいに違いない。


「どうかな。自分では分からん。食事はきちんと摂っているが」

「私には何もできないですけど、身体には気を付けるんですのよ」

「うむ」

「タニアのその『うむ』は大体アテにならないんでしたわ」

「い、今はそんなことはないぞ!」

「動揺してやがりますわね」

「う、うるしゃい!」


 噛みましたわね。


「……でも、本当に部屋に来てくれて嬉しかったですわ」

「私もリアの顔を久々に見れて嬉しかったぞ。あの男のおかげだな」

「ですわね」

「リア、今日はこのまま一緒に眠っていいか?」

「貴女が試験で落第して泣いていた時にこんな風にして寝たのを思い出しましたわ」

「そのことは言うな!」


 眠る、と言いながら、思い出話を私たちはいつまでも続けていた。

 もう二度と戻れないあの頃の話を。


 以下、次回! ですわ!

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