49「個人的に相談したいあれやこれや」
魔族、というか魔王に侵攻の意図が無いとわかっただけでも収穫だった。
「あとは相談というか、お願いごとというか」
ちら、と視線だけでコーネリアに向ける。
「ふむ。人払いをさせよう。コーネリア、夜にそなたの客間を訪ねる。その時は昔のようにしてくれると嬉しい」
「はい、陛下」
「ムニスも。ここからはサシで話すことにするわ」
「よかろう。我らにも客間の用意はあるのかの?」
「ククク、変わった神剣だな貴様。タクシと貴様とで一室用意させておる」
「平和を愛する魔王に言われたくはないがの。部屋の用立て感謝する」
なんだか仲良しだなオマエら。
ムニスとコーネリア、魔王の側近たちまでもが退去した後。
「人払いはした。用件は?」
「言わなくてもわかるんじゃないか?」
「ルッヘンバッハ家のことか」
「そうそれ。ひとつはあの家の処遇改善。もうひとつはアベルの決裁」
「他人事ばかりだな、貴様」
「他人じゃないんだよなあコレが」
レンドルフはダチだし、あの家には大いに世話になった。
「ランドルフの爺が気に入るわけだな」
「おりょ? お知り合いで?」
「ランドルフは幼年学校に勤めていたこともあるのだ」
「で、コーネリアとも同期なのね」
うむ、と頷きながらも魔王様は、
「だからと言って贔屓はできんがな」
結構お固くあらせられる。
「うーん。だめかあ」
俺が天井を仰いで呻いていると、魔王サマは咳払いをひとつ。
「まあ、勇者ではないにしろ神剣の主と友誼を結んだのは褒賞を与えるのに十分な功績と言えるかもしれん」
と、超早口で仰った。
「そういうもんですか」
「そういうものだ」
俺との関係性がそんなに重要視されるとはね。
まあ、理由付けとしてはちょうどいいのかもしれんなあ。
「辺境領を任せるとするか。余の直轄領や中央諸侯領から見ればド田舎なので疎まれるようなこともあるまい。男爵位として騎士連中の取りまとめを任せるとしよう」
「ありがとう」
「礼を言われる筋合いはないな」
素直じゃない魔王サマである。
「あとはアベルのことなんだけど」
「この度のお家騒動の犯人であろう? 貴様が右腕を切り落としたという」
「うん。あいつはどうなる?」
「聞いてどうするのだ」
「殺すとか言われたら、ちょっと恩赦が欲しいなー、とか」
「普通に死刑の予定だが?」
わお。ド直球。
でも、
「まあそうだよな。とは思うんだけど、そこをなんとかなりませんかね」
「逆に問うが、貴様、何故そこまであのような者にまで情けをかけるのだ?」
「アイツが死ぬとなー、レンドルフやコーネリアが悲しむと思うんだよなー」
「レンドルフ。ああ、あの働き者の三男か。あの家には辺境最強剣士のレオンハルトが次男におっただろう。レオンハルトかレンドルフのどちらかが家督を継げばよかろう」
「それが一番合理的なんだろうけどな。俺が言ってるのは情の話でさ」
しばし無言。
真紅の双眸が俺の顔をじっと見つめてくる。
目ェ逸らしたいけど逸らしたらだめだよなー。
ややあって、
「見返りは?」
と魔王サマは宣った。
「ん?」
「罪人の罪を減免するのだ、それなりの見返りを示せるか?」
「俺が?」
「他に誰もおらんだろう」
「そうだな。……俺が魔王サマに敵対しない、ってのは?」
俺の言葉に魔王は苦笑した。
「元々敵対する気のない者がそれを言ってもなんの交渉材料にもならんぞ」
「ソウデスネ」
うーん。どうしたものか。
「まあよい。彼奴めの処刑はしばらく先だ。今日は神剣と共に泊っていくがいい。この件については一晩考えてみよ。また明日話すとしよう」
「有難い」
「――今日の余は機嫌が良いからな。特別だ」
「さっきもそれ言ってたな。なんでご機嫌なんだ?」
「知己に会えたからだ」
コーネリアか。
なるほどね。魔王サマっつってもまだ若い女の子だもんな。
以下、次回! さて、俺が魔王サマになんらかのメリットを示す必要がある、か。




