45「そろそろ出発のお時間です」
その日、質素ながらも手の込んだ夕食を頂いた後、
「コーネリアのことなのだがな」
レンドルフに話を持ち掛けられた。
「私の代わりに王都までの案内をさせてはもらえないだろうか?」
そりゃまた寝耳に水な話だなオイ。
「んー? 待て待て、レンドルフさ、魔王サマのところまでついてきてくれるつもりだったのか? 俺はオマエんちまで乗せてってくれ、って頼んだはずだろ」
「当初はな。今は違う。当家を、父上を救ってもらったのだ。何もせんわけにはいかん」
「真面目か!」
「性分だ」
「損な性格してるな」
「貴公にだけは言われたくないのだが。そもそも人間が単身で魔族の領域を旅するなど自殺行為だぞ」
「ムニス居るからひとりじゃないもん」
「屁理屈を言うな。ひとりでもふたりでも一緒だ。というかムニス殿より貴公の方が死ぬなら先だろう」
「ごもっとも!」
おっしゃるとおり!
「というわけで、だ。本来なら私が同道したいのだがな。辺境領の警戒線任務の人手が減ったので私は行けないのだ」
あー、アベルの抜けた分か。
「だからコーネリアを護衛兼案内に付ける。騎士階級に落ちたとはいえ旧男爵家の末娘がいればおいそれと手出ししてくる輩もおるまい。中央諸侯領と魔王直轄領の関所に関しては、父上が通行を認める証文を書いた」
「至れり尽くせりだなオイ」
「当家として大恩に報いたいのだ。受けてもらえるだろうか」
「ありがとな。マジ助かるわ」
「コーネリアはあれでも箱入り娘でな。あれの見聞を広める意図もあるのだ。内緒だが」
内緒って全部言ってるやん!
「それ言わなかったらもっと良かったんだけどなあ!」
「世間知らずの妹が迷惑をかけると思う。許せ」
ものすごい後出しジャンケンをされた気分だ……。
でもこれでなんとか魔王サマまでの道筋はついた感じだな。
そして翌朝。
用意された馬車は家紋入りの立派なものだった。
「いよいよですわ!」
「テンションたけーなコーネリア」
「ルッヘンバッハ家当主名代としての務めに燃えてるんですの!」
「当主名代!?」
おいおい、そこまでの権限与えてるのか。
ルッヘンバッハ家、正気ですか?
「いいか、コーネリア。お前の発言、行動が全て当家を代表するものだということを忘れるなよ」
「気負い過ぎないようにね」
レンドルフとレオンハルトが御者台の妹に声をかける。
「はいですわ!」
うーん、不安しかない。
「任せたぞタクシ」
「よろしく頼むね、タクシくん」
「いや待て、俺に丸投げすんなよ!」
「主殿が言えた義理ではないがの」
普段何でもかんでも丸投げされているムニスのツッコミが胸に刺さる。深々と。
「せ、せやな」
「心配ご無用ですわ!」
コーネリア、俺はそのたっぷりの自信が心配なんです。
「我は楽しみじゃがの。不確定要素は多ければ多いほど面白いゆえ」
「そりゃ全知はそうだろうよ。とはいえ始まる前からウダウダ言っても仕方ないわな」
馬鹿の考え休むに似たり、と昔の人は良いこというなあ。
「じゃ、行こうか」
「それでは皆様、出発ですわ!」
以下、次回! コーネリアのこの変な語彙はどうなってるの?




