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44「天才の巣窟」


 朝食は全員揃ってから、ランドルフの寝室にテーブルを持ち込んで食べた。そんで結局その日も泊まらせてもらうことになったりなどしたのであった。


 昼間にはレオンハルトに剣の稽古をつけてもらった。もらったんだけど尋常じゃなく強かった。細剣の使い手で恐ろしく技がキレる。

 なんでそんなに強いのか問いただしたら、


「私は魔力の才能が乏しくてね。剣技を磨くしか道がなかったのさ」


 と笑顔で言われた。


 ――後で知ったことだがレオンハルトは辺境域最強剣士とのこと。

 先に教えてくれよ。下手したら稽古で死ぬわ!


「魔法の才はコーネリアが一番だね。天才と謳われた母上の血を濃く受け継いでいるからね」


 レオンハルトが笑顔で言う。

 あのアホの子が天才? マジでか。


「レンドルフは?」


 俺が稽古を見学していたレンドルフを指差すと、


「レンくんは攻撃魔法しかできないからねえ」

「兄上! 人前でレンくんはおやめくださいと何度も!」

「あははははっ」


 仲の良い兄弟だな。

 昨日はアレな感じだったけど、ガキの頃はアベルとも仲良かったんかね。

 そのアベルは今回の件で魔王サマの決裁を仰ぐため、西に送られたそうな。

 あれ? それに便乗させてもらったら超絶楽できたのでは? もう手遅れか。

 

 とりあえず稽古を終えて庭でのんびりだらだら寝転がっている。

 アベルのやつ、自分一人で背負いこみ過ぎたんでは?

 こんなに頼りになる弟たちがいるのに。

 優秀過ぎて自分が廃嫡されるとか考えたのかね。

 どうなんだろうな。なんかもっといい未来があったんでないのかな、とか。

 俺の行動はアレでよかったんですかね、とか。

 まあ今更巻き戻せないのでどーしよーもないんですけどね。

 つい余計な考えてしまうんだな。時間があると。


 と、俺の上に影ができた。

 空が曇ったわけではない。人影だ。


「タクシ様」

「コーネリアか」

「隣、座っても構わないですの?」


「どうぞ」


 魔法の天才らしいアホの子コーネリアは俺に何の用だろうか。

 コーネリアは寝転んでいる俺の隣に座って、


「お詫びを言いに来たんですの」


 お詫びとな。


「この度は当家のゴタゴタに巻き込んでごめんなさいですわ」

「そんなことか」

「そんなこと!?」

「別に俺は大して迷惑被ってねえぞ。ちょいちょい死にかけたくらいで」

「十分迷惑かけてますですわ! 人間であるタクシ様がどうしてそこまで魔族に肩入れをするんですの?」


 俺は深ーく溜息をひとつ。

 マジでいい加減飽きたぞこのパターンのやりとり。


「コーネリアは人間をどう思う?」

「我々魔族の領域を脅かす存在、と教わってるですわ」

「俺も人間ですけど?」

「ですけど!」

「ですけど?」

「タクシ様は良い方ですわ!」


 俺は少し身を起こして、コーネリアの髪をくしゃくしゃと撫でた。

 コーネリアは目を細めてされるがままにしている。犬みたいな子だな。


「ありがとな。つまりはそういうことだよ」

「どういうことですの?」


 おお、コーネリアよ。汝、残念な子。


「俺は人間だ。でもコーネリアは俺が魔族の領域を脅かす存在だとは思ってないよな?」

「はいですわ!」

「俺は人間なのにどうしてそう思う?」

「えーと、それは、えーとえーと、よく知ってるからですわ?」

「そういうこと。知ってれば怖くない。知らないから怖い」


 人間も魔族も同じだろうな。


「ですの?」


 残念過ぎる子だなオイ。


「魔族だろうが人間だろうが、良い奴もいれば悪い奴もいる。人間だからこう、とか決めつけるとつまんねえぞ。御母様も言ってただろ? 世界は広いらしいぞ」

「大兄様は魔族だけど悪いことをしました。タクシ様は人間だけど良いことをしてくれたんですの。大兄様は悪ですの?」

「うーん。論点ちょっとズレたな」


 あんまりデカい括りで物事捉えるな、って意味では合ってるんだけど。


「アベルのやったことは悪いことだけど、その真意まで悪だったかどうかは俺には分からん。俺よりコーネリアの方がアベルの気持ちが分かるんじゃねえの?」

「ですわね!」


 以下、次回! ま、コーネリアについては今後に期待、ということで。


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