43「当主の仕事が速くてちょっと引く」
俺が斬り飛ばした腕の止血はレオンハルトがやってくれた。
俺はムニスに確認した後、
「魔結晶は必要だけど、ムニスなら腕を繋ぐこともできる。どうする?」
「気遣い無用」
そう言ったのは当主ランドルフだった。
「これ以上、客人に迷惑はかけられぬ」
「迷惑だなんて、そんなことは」
「レンドルフが気に入るだけあって相当なお人好しと見える」
「ははは」
そいつは過大評価だな。
愛想笑いの俺の袖をムニスが引いてくる。
「主殿、朝飯前の名推理と事後処理も終わったところで我はそろそろ朝食といきたいのじゃがの」
「ふははははっ。連れのお嬢さんは肝が太いな!」
「レディに肝が太いは失礼ではなかろう」
「はっはっは! エマ、コーネリア、朝食の用意を。レオンハルトとレンドルフはアベルを管理部門に引き渡してまいれ。追って家督継承権を剥奪する旨も伝えておけ」
「「はっ」」
すっげえテキパキ進めていくな。さすが当主。
「アベルよ。沙汰は魔王様がお決めになる。楽に逝けるとは思わぬことだ」
「くっ」
「ワシの不徳だ。すまんな」
「……」
「兄上、行きましょう」
弟たちに両脇を抱えられ、アベルは退室した。
「タクシ殿、ムニス殿。ひとつ答えてくれんか」
「答えられることであれば」
「何故あれの首を刎ねなんだ? 必要な隙は直前の二刀の投擲で十分作っておったであろうに」
ムニスのこと訊かれるのかと思ったらそんなことか。
なんでアベルの首を取らなかったか、ってアンタ……。
「そんなことして誰が喜ぶんだよ。少なくとも俺は、コーネリアやエマさんに兄貴の首が飛ぶところを見せたくなかった。腕もどうかと思うけどさ」
「そうか」
「首、飛ばした方がよかったか? 自分のやったことを顧みる猶予も与えずに? もし当主サマがそう言うなら今から追いかけて首取ってくるけど」
「我は付き合わんからの。おぬしひとりでやるんじゃぞ」
「マジで付き合い悪いなムニス」
「我は朝食待機中ゆえ」
「だそうなんでやっぱ今の無しってことで!」
「……ご厚情、感謝する」
「頭は下げんでくださいよ。俺はレンドフルにここに着くまでめっちゃ助けてもらってるんだから。昨日も泊めてもらったし。それでトントンじゃないスかね?」
「欲の無い御仁だな」
渋く笑うランドルフに横からムニスが手を全力でバタバタ振りながら、
「いやいやいやいや、ランドルフ殿。買い被るのもほどほどにの! 我が主殿の本質は強欲と怠惰じゃからして」
「やかましいわ」
「仲の良いことだ」
って眩しそうに俺らを見てるけど、
「この家もそうじゃん。みんなお互いを思い遣ってるって思うよ。アベルのヤツだってなんとかして爵位を取りもどしたかったんじゃないか? 最初は自分の為じゃなくて、家名? ってやつのために。知らんけど」
ほんとに知らんけど!
「そう言ってくださるか」
ランドルフは家人のいない室内で、滂沱の涙を流した。
「泣くなよ。俺は胸は貸さねえぞ」
「ケチ臭いのう主殿。ランドルフ殿、我の胸でよければ貸そうかの」
「いいわけねえだろそんな洗濯板で」
「タクシ! 我を愚弄したな!」
「ふっふ、妻がおるのでな。申し出だけ有難く受け取ろう」
やっと笑ったな。よしよし。
以下、次回! ひとまず一件落着かな。




