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42「俺なりの勝ち筋の手繰り寄せ方」


「ルッヘンバッハ家の当主の部屋に剣を持ち込むとは痴れ者めが!」

「アンタだけには言われたくねえわ!」


 相手の力量は不明。

 さっき見たレオンハルトへの一撃は見切れないほどじゃなかったけど速かった。

 あれが全力だとは思えない。それなりに本気だったはずだとしても。

 なにがどうあれ俺よりは格上だと見て間違いない。


 さて、勝つにはどうするか。

 俺は全知の神剣の主だ。

 知恵を使え。

 頭を回せ。

 舌を回せ。


「アンタが当主になったら騎士階級すら剥奪されるんじゃね?」

「なんだと!」

「頭は悪いしは気も短い。弟たちの献身に報いもしない。妹ちゃんはまあまあ大事にしてるみたいだけど、シスコン? レオンハルトさんかレンドルフの方が家督継ぐには合ってるんじゃねえの?」

「貴様ぁ!」


 そうそう。それでいい。怒れ怒れ。もっと怒れ。

 まだヤツの剣の間合いの外だ。

 つまり、もっと煽れる。


「どうせ剣技もレオンハルトさんの方が上手うわてなんだろ? レンドルフのことを馬鹿にしてたけど、あいつは真面目に働いてるよ。無理して中央自治区に行商までして家に尽くしてる。で、アンタは?」


 お、プルプルしてる。図星突かれると大体そうなるよな。


「偉そうにふんぞり返って、たまに仕事したと思ったら、年下の上官に叱られてご機嫌斜め。慰めてよママー、ってか。シスコンだけじゃなくてマザコンでもあるとか重傷だな」


「貴様は殺す!!」


 アベルは俺の罵倒に堪えかねたのか大きく剣を振り上げ踏み込んできた。

 来た! 


 大上段から殺意の塊が降ってくる。

 受けるか、躱すか。躱す方を選択。

 ドラコノース三刀流の歩法。基本に忠実に滑らかに。

 体捌き。基本通りに正中線を乱さずに。

 避けろ。躱せ。


 半身になった俺の鼻先を斬撃が通り抜ける。


 ビビるな! 臆している暇はない!!

 更に体を半回転。アベルの背後にぴったりと張り付く。


「そんな大振り当たるかバァカ」


 煽る声が震えなかった奇跡に感謝。さあ、鬼ごっこだ。


 追うアベル、逃げる俺。

 剣の間合いの更に内側。台風の目とも言える位置に身体を置き続ける。

 歩法を乱すな。

 背を曲げるな。

 絨毯の上を滑れ。

 死角に居続けろ。


「逃げるな卑怯者! 打ち合え!」

「親殺し未遂犯に卑怯呼ばわりはされたくねえな!」


 まだいける。

 もう少し。


「があっ!」


 怒りに任せた大振りの一撃。絶対に当たらない無駄な動き。

 ここが勝機だ!

 行け俺!

 踏み込め。剣を振れ。自然に、空気のように、風のように。


 疾ッ!


 俺は両手の小剣を一閃。両脚を切り裂いた。手応えはあった。けど浅いか?

 距離を取り、アベルと向き合う。


「人間風情がっ!」

「その人間風情に手玉に取られてるアンタはなんなんだろうな?」


 動きは鈍ってる。間違いなくアベルの機動力は削いだ。


「第一、俺は人種差別反対派の平和主義者だっつーの!」

「黙れぇ!」


 鈍い足取り、精一杯の挙動。

 性懲りもなく上からの斬撃。


「はっ!」


 俺は小剣を連続して投げつけた。


「馬鹿が!」


 アベルが口を歪める。斬撃を止め、小剣二本を弾く。


 ――かかった!


「ムニス! 来い!」


 叫ぶと同時、俺の右手にすんなりと馴染む軽い感触。


『よくやったの』


 神剣と化したムニスが優しく褒めてくれる。嬉しい。

 だが、まだだ。まだ勝ってない。緩めるな。集中しろ。


「なっ!?」

「これが俺のとっておきだ!」


 斬ッ!


 全知の神剣(ムニス)の光刃は、長剣を持つアベルの右腕を、半ばから斬り飛ばした。


 以下、次回! 後始末をする予定!

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