41「ムニスの犯人捜し解決編」
「次兄、レオンハルト殿は前線にて国境線の守備任務。屋敷におる時間の方が短い。そもそも殺すならお父上より、アベル殿の方を狙う方が手っ取り早いじゃろ。家督相続権が転がり込んでくるのじゃからの」
「ムニス! 言い方!」
手っ取り早いとか言うな!
「くふ、失礼。というわけでアベル殿? 貴殿のみが残された。当主代行を名乗り常に屋敷におり、自由にできる金もあり、毒を市街で入手する機会もあるしの。何より動機。ランドルフ殿が亡くなれば正式に当主になれるのじゃから、これ以上の動機はなかろう。さて、何か弁明があれば聞くがの?」
「証拠もなしにこの俺を犯人扱いする気か!」
激昂するアベルに対し、ムニスは恐ろしく冷静。
ゆっくりとした動きでアベルの胸元を指差し、
「貴殿の右の内ポケットに忍ばせておる粉薬。それをこの場で飲んで見せて頂けるなら、我の推理を撤回しよう。どうかの? アベル殿?」
にっこりを笑って見せた。普段の無邪気な笑いとは違う、酷薄な笑み。
アベルは自分の右胸を両手で隠すように押さえた。
「貴様っ! 何故! どこまで知って!」
「我に知らぬことなどない。この程度朝飯前よ。実際、朝食を頂いておらぬな。そういえば」
「大兄上こそ、何故このようなことを!」
「レンドルフ! 貴様のような気楽な三男坊如きに、落ちぶれた貴族の長子の気持ちが分かるものか!」
うわ、今めっちゃムカついた。三男坊の苦労もわかってないだろ。
「男爵位から騎士へと落とされた父上のせいで、俺がどんな目に遭っているか知っているのか!」
うわー。ものすごいこと言うわこのお兄様。
ムニスがふん、と鼻を鳴らして、
「大方、年下の上級爵位持ちにアレコレ言われるのが歯がゆいとかその程度のことじゃろ。小さい小さい。家督を継ぐ器ではないの。大きいのは体格だけじゃな。のう主殿?」
「俺に振るのやめて!」
リアクションに困るからね!
「小僧貴様あっ!」
「なんで俺!?」
しかも抜剣しやがったぞオイ!
「兄上! 父上の寝室で剣を抜くことがどういう意味かお分かりにならぬでもないでしょう」
諫めるレオンハルトにアベルは躊躇の無い一撃を見舞う。
レオンハルトは驚異的な見切りで横薙ぎの斬撃を避け、妹と母を庇う位置取り。すげえなこの人。
「レンドルフ殿はお父上を護られよ。アベル殿の相手は我が主に任せてもらおうかの」
えっ。
「俺?」
「いかに罪人に堕したとはいえ、家族を手にかけるのは辛かろう。一宿一飯の恩義もあるしの。朝食はまだ頂いておらぬが」
こだわるね朝飯に。
「ほれ」
シェイル謹製の小剣をどこに隠し持っていたのか俺に投げ渡してくる。
「やるのじゃタクシ。ここまでの旅路、ただ遊んでいたわけではなかろ」
「死線を潜れ、ってやつだな。いざとなったら頼むぜムニス」
「手は貸さんが?」
「手は要らねえよ。剣を貸してくれ」
「くっふっふ。よかろう。必要な時は呼ぶがよいぞ」
「頼むぜ」
くっそ、最後は結局俺がケツ持つのね。
以下、次回! ブチ切れ長男と一対一の勝負だ!




