40「ムニスの全知は伊達じゃない」
俺とムニスはレンドルフに連れられて再び主寝室を訪れた。
入室するや否や、
「まだいたか人間!」
長男アベルが怒鳴りつけてくる。
「誰の許しを得ての行いか! 斬り捨てるぞ!」
そこへ割って入ってくれたのはレンドルフだ。
「大兄上、私がお連れしました」
「貴様! 穀潰しが何をしておるか!」
「まあまあ、兄上。レンドルフにも思うところがあるのでしょう」
「レオンハルトは弟に甘すぎるのだ!」
おまいう~。
「落ち着きなさい、アベル」
場を収めたのはエマさんだった。
「母上……」
「レンドルフ、お二人をここにお連れした理由を言って御覧なさい」
「はい、母上。ここにおられるムニス嬢が、父上をこの窮状に陥れた真相を見極める、と」
「小娘風情の甘言に乗せられるとはな」
「お黙りなさいアベル!」
「ぐっ」
お母さんつよい。威圧感パネエ。
全員が気圧される中、ムニスだけが平然としていた。ぺこりと頭を下げ、
「小娘風情にお時間を頂き感謝いたします、御母堂」
「いいえ、どうぞはじめてください」
「承った。さて各々方、お覚悟はよろしいかの?」
にたり、と笑うムニスの体が一回りも二回りも大きく見えた。
「ルッヘンバッハ家当主ランドルフ殿の毒殺を試みた人物はこの中におる」
「小娘! 何を根拠にそのような妄言を!」
「黙れアベル!」
その声はベッドから聞こえた。
つまり、
「父上!?」
ルッヘンバッハ家当主、ランドルフは一同にこう告げた。
「今は黙ってムニス殿の話を聞け」
全員が押し黙る。
当主の命令に背くことなどできはしないのだろう。
その静まり返った空気の中、ひとり楽し気にムニスは笑った。
「御覧の通り、ランドルフ殿を蝕んでおった毒は、昨夜のうちに解毒しておったのよ。くふふ、少々魔結晶を使うことになったがの」
解毒は俺が頼んでおいたんだけど、そのせいでレンドルフがげっそりしてるのね。
「毒は抽出して既に魔王直轄の管理部門へ送りつけておる。今なら自白すれば罪はほんの僅かばかりではあろうが、軽くなろう」
だが、誰も口を開かない。当然だ。
数瞬後、
「ならば我が引導を渡してやろうかの。ま、答えは簡単なのじゃがな」
全知は全てお見通し、か?
最近「知らん」「分からん」とか言うことがままあるムニスなのでちょっと心配な俺である。
「まずは除外される容疑者を挙げて行こうかの。レンドルフ殿は行商に出ていたが、遅効性の毒を仕込むという手段はあったため、当初容疑者から除外することはできなかったんじゃがの」
ムニスは朗らかに断言する。
「解毒の折に抽出した毒は遅効性ではなかったゆえ、レンドルフ殿は除外。次に、コーネリア殿と御母堂。毒を盛る機会はあるものの動機が無い。当主を亡き者にして得られる利益と危険度が全く釣り合っておらぬ。よって除外」
ここまではまあ、俺も同意見。
「さて次は自殺の可能性。これも無しじゃの。死ぬ理由が仮にあったとして、それならもっと強い毒を飲むじゃろ。抽出した毒は徐々に体を蝕むもの。付け加えるならじわじわと毒を強めて飲ませていた痕跡も確認しておる」
全知ってすげー!
残る容疑者はふたり。長男アベル、次男レオンハルト。
以下、次回! 今回、俺全然喋ってねえな!




