39「容疑者の長男と次男」
夜も更けた頃。
廊下から、いきなりの喧騒。
俺とムニスは客間のドアの隙間から覗いていた。
「レンドルフ! 人間を屋敷に上げるとは気でも狂ったか!」
「大兄上、彼らは私の恩人なのです!」
大柄な魔族はレンドルフの兄らしい。長男かな。
「恩人だと? どうせつまらぬことで付け込まれたのだろうが!」
おっ、なかなか鋭い。付け込んだわけじゃないけども。
火花バチバチに散らす両者の間にダッシュで割り込んできたのは、
「大兄様!」
「おお、コーネリアか」
「お兄様も当家のことを考えてのことですわ! 許して欲しいのですわ!」
「……うむ。コーネリアがそうまで言うなら、今夜一晩だけは滞在を許す」
妹には激甘かコイツ!
一方レンドルフの「感謝いたします、大兄上」という言葉に対しては、
「フン、穀潰しが野良犬を拾ってきおってからに」
ものすごい捨て台詞を吐いて、長男――アベルとかいうヤツはドスドスと足早に去っていった。
俺たちはドアをそっと閉めてソファにどっかり座りなおした。
「タクシよ、あの者、斬って良いかの?」
「良いわけあるか。だめだっつの! しっかしレンドルフも大変だなあ」
「才は見たところレンドルフ殿の方があると思うがの」
「世襲制ってヤツはこれだから……」
本題からズレたな。
「んで、見た感じどう?」
「アベルとやらか?」
「うん」
「今の所一番怪しいのぅ。怪しすぎて逆に怪しくない感じもするの。タクシはどう思ったかの?」
「俺あいつ嫌い」
「おぬし、我より感情的になっておるではないか」
「だってムニス、あいつ、レンドルフがどれだけこの家のことを考えてるか絶対わかってねえ。長男だからあいつが家督を継ぐんだろ? サクっと親父さんを殺して自分の好きにしたい。動機はある。もうあいつが犯人でいいよ」
「情に流され過ぎじゃの」
「むー」
俺が唸っていると、
「……そういうところ、我は嫌いではないがの」
なんか小声でムニスが言ったけど、聞き逃したわ。
「え? なんて?」
「なんでもないわ。ばかもの。今日はもう寝るぞ」
長兄アベルに出ていくように言われた翌朝、俺たちは玄関脇のソファに座っていた時、次男のレオンハルトが帰ってきた。
「ただいまかえりました。おや、お客様ですか? ようこそ、大したもてなしもできませんがごゆるりとお過ごしください」
うーん、長兄アベルとのこの態度の違い。悪い人ではなさそうだ。
でもなあ。
ただなあ。
「タクシよ、もう長男が犯人でよかろ」
「雑! 私情が入り過ぎてる! 推理は!?」
「タクシも昨夜はそんなことを言っておったではないか」
「いや、それがですね。今帰って来たレオンハルト氏なんですけどね」
「いい男だったではないか」
そうなんだけどさ。
「顔と、声が」
「なんじゃの?」
「糸目で石田声は流石にちょっと怪しすぎてですね」
「何を言うておるのじゃ主殿」
「いや、ホンマに」
ムニスに伝わらないのは分かってるんだけどさー。石田声は裏切るじゃん?
「もう黙っておるがよい。あとは我に任せるのじゃ」
「でもさー」
怪しいんだよなあ。声と顔が。
「タクシ、ムニス嬢」
「おはようレンドルフ」
なんか顔色悪いなレンドルフ。大丈夫かね。
「何故荷物をまとめている」
「いや、これ以上迷惑かけれんだろ。上の兄さんに一晩限りって言われたし」
「大兄上のことなら気にしなくて良いのだ」
「そうもいかんやろがい」
「主殿も少しはこういった気遣いを見習うがよかろ。レンドルフ殿、出ていく前にもう一度当主殿の部屋に行かせてもらえんかの?」
「構わない」
「ムニス、何する気?」
「そこで、犯人を見定めるつもりじゃ。推理しろ、と言うたのは主殿じゃろ」
「ん。じゃあ任せた」
「うむ」
以下、次回! 名推理炸裂! 神剣の名にかけて!




