38「中身は全知、身体は幼女! 名探偵ムニス!!」
「では失礼するかの」
「よろしく頼む、ムニス嬢」
「任せよ」
ムニスはシーツを剥ぎ、全身をくまなく調べ始めた。
手の爪、足の爪、足首、首筋、伏せた瞼をこじ開け眼球も。
呼吸、心音、脈拍。そして最後に髪の毛に触れた。
シーツを元に戻し、ムニスは断言する。
「毒じゃの」
「は? 今なんつった?」
「主殿、耳に泥でも詰まってるのかの? 毒じゃ。毒を飲まされておる」
「誰が飲ませてると言うつもりですの!?」
コーネリアが叫ぶ。
「決まっておろうが、小娘」
ムニスは場違いなキメ顔でこう言った。
「犯人はこの家族の中におるのじゃ!」
「ムニス嬢、本気で言っているのか?」
「最初は呪いの類かとも思ったがの、呪いならレンドルフ殿が気づくであろ。魔族は魔力に長じた種ではあるが、生命力もそれなりに高い。病に対する耐性も多少はあるしの。御父上の年齢でも、ひと月足らずでここまでの容態に追い込むのは普通の病ではなかろ」
「確かに」
「この家に、否、この部屋に出入りできるのはここにいる御三方以外には?」
「私のふたりの兄だけです」
「つまりご家族全員に機会があった、ということじゃの」
「ちょいちょいちょーい! レンドルフは行商に出てたんだから無理だろ!」
「友を庇う友情は美しいがの、それが目を曇らすこともある。遅効性の毒ならばレンドルフ殿にも機会はあるのじゃ」
「ムニス嬢の言う通りだ。私も容疑者だな」
「丁度、ふたりの兄上も戻るのであろ? そこで解決して見せようかの。宜しいか、我が主」
「アッハイ」
もう全部お任せします!
俺とムニスは一旦客間に通された。
寛いでくれ、とのレンドルフの配慮だが、寛げる気分ではないわな。
でかいソファに二人並んで座って、状況を整理してみる。
こんな感じ。
被害者 ランドルフ・ルッヘンバッハ(当主、毒殺されかけてる)
容疑者 エマ・ルッヘンバッハ(当主の妻。基本優しいけど怒らせると怖いタイプ)
容疑者 アベル・ルッヘンバッハ(長兄、外出中。今日中に戻る。未見)
容疑者 レオンハルト・ルッヘンバッハ(次男、仕事中。明日には戻る。未見)
容疑者 レンドルフ・ルッヘンバッハ(三男、中央自治区への行商から帰宅した所)
容疑者 コーネリア・ルッヘンバッハ(末娘、家事手伝い。アホの子風味)
うーん。並べてみたけど、コレは。
「上の兄さんがたが帰ってこないとどうしようもなくないか?」
「くふ、相変わらず主殿はおつむが残念じゃの」
「ほんとにどんどん口が悪くなるね、神剣サマ」
「こういう我も可愛らしいじゃろ?」
「ソウデスネ」
上目遣いで媚びたポーズしても釣られるか。
「つれない主殿じゃの。まあよい。聞くがよい」
「ん。頼むわ」
「レンドルフ殿はまず除外して良い」
「さっきは遅効性の毒がどうたら言ってたのに?」
「公平性を期すれば――全ての可能性を考慮すれば――、ああ言う他あるまいよ」
「むう」
「あの小娘も無いの」
「そうなん?」
だって、とムニスは前置きして、
「馬鹿すぎるじゃろ」
と言った。ひどい。まあ否定もできんが。
「御母堂も除外してよさそうじゃの」
「なんかお母さんに対しては私情入ってない?」
「よくできた人物じゃと思うがの。私情は挟まぬよ。単に、機会はあっても理由が無いじゃろ。当主殿の命を絶って御母堂に何のメリットがある? つまり、実質容疑者は長男次男の二名じゃの」
以下、次回! 俺は「なんだってーッ!?」っていう担当になるかと思います。




