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37「世界を狭める心の額縁」


 豹変したエマさんにコーネリアも若干ビビっていた。


「お、御母様?」

「コーネリア。可愛い私のコーネリア」


 エマさん、怖いっす。顔が。 

 レンドルフがものすごい済まなそうな顔でこっちを見ているので、気にすんなとジェスチャーをしておく。


「私にはね、エルフやドワーフ、獣人のお友達もいるの。勿論人間のお友達もね。あなたも兄を見習って狭い世界から出てお行きなさい」


 相手を種族で見るな。個人として接しろ、と言いたいんだろう。

 コーネリアは分からない、という顔。


「御母様は私が間違ってると言うんですの?」


 エマさんは静かな怒りを収め微笑した。


「間違っているのではないわ。知らないだけ。知らないことを知ることは楽しいことよ。自分の心の額縁を取り外しなさい。世界はもっと広く自由なものなのですから、自ら狭める必要はないのよ」


 含蓄のあるお言葉である。詩的でもある。コーネリアには難しいんでないかね。


「はい御母様」


 とか言ってるが、わかってない顔だなあれは。


「素晴らしい御母堂だの」


 全知(ムニス)のやつはめっちゃ嬉しそうにしている。

 知ることに重きを置く人物をムニスは評価するからなあ。


「息子がお世話になったようですね。本当にありがとうございます。何もない家ですけれど、ゆっくりしていってくださいね」

「ありがとうございます」


 屋根があるだけで助かる。野宿はもう飽きた。アレはマジでつらい。


「母上、父上が臥せておられると聞きましたが?」


 レンドルフが急かしてくる。

 お母さんの顔色が変わる。


「寝室へ行きましょう。お客様もよろしければ我が家の当主にお目通りいただけますかしら」





 屋敷の二階の奥に当主の部屋。

 エマさんとレンドルフ、コーネリアに続いて一番最後にムニスと一緒に入室する。

 デカいベッドに銀髪の魔族が横たわっていた。

 意識は無いように見える。


 レンドルフが近づいて膝をつき、呼吸や心音を確認している。

 ほっと胸を撫でおろしつつも、


「いつからこのような状態なのですか、母上」

「あなたが行商に出て行ってしばらくしてからよ」

「ということは一ヶ月程前からですか。これまでも病に臥せることはありましたが、これはあまりにも……」


 遠目に見ても顔色が悪い。

 魔族は元々青白い肌をしてるが、もはや土気色だ。


「ムニス、頼めるか」

「おぬしが望むなら、我は構わんよ」

「ありがとな」

「よいよい」

「レンドルフ! ムニスに親父さんを診させてやってくれないか。俺はなんもできんけど、ムニスなら何か気付くことがあるかもしれない」

「いいのか?」

友人(ダチ)の親父さんが大変なんだからいいに決まってるだろ」

「友人と言ってくれるのか」

「えっ、そう思ってたの俺だけ? ちょっと恥ずかしいんだけど!?」

「恩に着る」


 そういうわけなので、


「じゃあムニス、よろしくおねがいします!」

「構わんとは言ったがの、主殿はなんでも丸投げするのは少々慎むようにの」

「アッハイスンマセン!」



 以下、次回! さて、ムニスの診断結果やいかに。


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