36「レンドルフの母上に出迎えられる回」
「もういいよ、コーネリアちゃん。気にしてないからさ」
俺が土下座をやめるように促すと、コーネリアはすっくと立ちあがり、
「私のことはコーネリア様と呼ぶといいですわ」
それにキレたのは俺の相棒だった。
「小娘、レンドルフ殿の妹御ゆえ一度は赦すがの、我が主を馬鹿にするなら命がないと思え」
軽率に殺気を放つな神剣。
「ひいっ」
ほら、コーネリアがチビりそうになってるじゃねえか。
「怖い怖い! ムニス、俺は気にしてないから! な?」
「主殿は甘すぎるの」
「ふたりとも、躾のなっていない妹で申し訳ない。男三人兄弟の後で生まれたもので、やんちゃに育った上についつい皆甘やかしてしまうのだ」
「ちっともやんちゃじゃないですわ!」
うーん、自覚が一ミリも無いな。
「もう少し慎みを持てと言っているのだ、コーネリア。ところで兄上たちはどうしている?」
「大兄様は外出中ですわ。夕方には戻ると言ってましたですの。中兄様は暫定国境線の警備に出ています。そろそろ交代の期日ですから明日には帰ってくるですわ!」
「そうか。母上は?」
「御母様は毎日家の細々したことをやってますですわ」
「ならばコーネリアは自分でめくった芝生を綺麗に戻しておくんだな。これ以上母上に迷惑をかけるな。わかったな」
「はいですわ……」
「最後に訊くが、父上は?」
「御父様は病に臥せってますですわ。直接お目通りくださいですわ」
屋敷の玄関は立派なもんだった。ただし、中の装飾はかなり質素。
昔はあっただろう燭台やら壺やらシャンデリアやらは根こそぎなくなっているように思える。金策の為に処分したんだろうかね。ちょっと寂しい感じだな。
「みすぼらしい家だろう?」
と、俺の心中を察したかのようにレンドルフが言う。
「んなこたねーよ。俺の(転生前の)家なんかここの玄関くらいの広さだったぞ」
「それは、大変だな……」
めっちゃ同情された。日本のワンルーム事情を説明したい気分。
「お帰りなさい、レンドルフ。帰りが遅くて心配したわ」
玄関まで迎えに出てきていたお母さんは若い頃はさぞかし美人だったろうと思わせる上品なマダムだった。
「申し訳ございません。只今戻りました」
お母さんはを俺たちを一瞥。まあ、人間だからな。警戒するわな。
「そちらはお客様?」
「はい。道中で知り合った恩人で、友人です」
「恩人で、友人」
息子のその言葉で急に警戒感が霧散した。
「人間の方に助けていただいたのね?」
「はい、最初は失礼をしましたが、彼らは全くの善意で私に接してきました」
「そう。それは良かったわ」
お母さんニッコニコである。
挨拶のタイミングは今しかなさそうだな。
「ども、はじめまして。タクシって言います。こっちはムニス」
「タクシくんにムニスちゃんね。私はエマ。当主ランドルフの妻です。息子がお世話になりました」
「御母様、人間でやがりますわよ!」
コーネリアちゃんが喚き散らす。困ったね。
お母さん――エマさんの顔色が変わった。明るい喜びの笑みから冷徹な怒りの表情に。
以下、次回! お説教タイムのはじまる予感!




