35「俺たちはレンドルフの家に到着したわけで」
旅路は――ちょいちょいトラブルはあったものの――特に大きな事件、事故もなく続き、中央自治区から大陸西端までのだいたい半分くらいのところまでやってきた。日本地図的に言うと神戸とか姫路とかだいたいあのあたり。
「もうすぐ私の家だ」
「いやー、馬車に便乗させてもらって助かったわマジで!」
「礼を言うのはこちらの方だ。あそこで貴公らに出会わなければ馬車を放棄して徒歩で帰ってくる羽目になっていたはずだからな」
「じゃあまあ、WINWINってことでいいんでね?」
「うぃんうぃん?」
「どっちも良かったね、みたいな意味だよ」
「そうか。貴公がそう言うならそうだな。そうだタクシ、ムニス嬢。もしよければ今日は我が家に泊っていかないか?」
俺が反応する前に、
「おお! 久しぶりのベッドじゃの!」
「と、ムニスが無邪気に喜んでるのでご厚意有難く」
「なんじゃその言い草は! レンドルフ殿! タクシは馬小屋で十分じゃからの! 寝藁も要らぬからの!」
「フッ、馬の方が迷惑がります」
「確かに。それもそうじゃの。ならば仕方ないの、主殿。部屋の隅で寝てよいぞ」
「オマエらほんとに俺を弄る時は活き活きするよな!?」
「――着いたぞ」
貧乏貴族とか言ってたけど、
「でっかい庭付きの立派なお屋敷じゃんか」
「先代までは爵位持ちだったからな。今は辺境守護職の騎士階級だ。庭の手入れも一苦労なのだ」
なんか色々大変だな、と思っていると、屋敷の方からこっちに走ってくる人影が。
「お兄様ー!」
「レンドルフ、オマエ妹いたの?」
「む。言っていなかったか?」
聞いてねえよ! 初耳だ!
妹がいるもいないも、レンドルフの家族構成については、
「オマエが三男ってとこまでしか聞いてねえよ」
「そうか。すまんな。あれが妹のコーネリアだ」
物凄い勢いで走ってくる。止まれるのかあの子。
「お帰りなさいですわー!!」
ずざざざざ!
と急ブレーキ。うわ、芝生がめくれてひどいことに。
あーもー、手入れ大変なんだろ? いいのかコレ。
横を見るとレンドルフがどえらい顔してる。怒ってるんだよなたぶん。
しゃーない。
ちょっと間に入って空気を和ますか。
「やーやー。キミがレンドルフの妹さんだね! 俺はタクシ! よろしくな!」
フレンドリーさを前面に押し出した挨拶。
「あ、はいですわ。よろしくおねがいいたしま……人間!?」
「そうだけど」
妹ちゃんの紅い眼がギラリ、と光った。
同時に叫ぶ。
「お兄様から離れやがれですわ!」
「おおう」
急に飛び掛かってくるなよ。
ひえっ。思ったよりずっと速い。
ここまでの道中ずっと練習してたドラコノース三刀流の運足と体捌きで紙一重で躱し、俺は馬車から飛び降りる。ムニスも華麗な跳躍で俺の横に着地。
「お兄様に何しやがるですわ!」
御者台に仁王立ちし叫ぶ妹ちゃんに、
「それはこっちのセリフだ、コーネリア」
レンドルフの言葉と拳骨が炸裂した。
「あいたぁ! ですわ!」
「そちらのふたりは人間ではあるが、私の恩人だ。まずは非礼と粗相を詫びろ、コーネリア」
ムニスは人間でもねえけど、まあいいか。
「えっえっ? でも相手は人間です……、わ?」
「その狭い考えを改めろコーネリア。もう一度言う、彼らは私の恩人だ」
「はいですわ」
そして妹ちゃんは御者台から跳んだ。
緩やかな放物線を描き俺たちの眼前に着地し、地に伏せた。
「ごめんなさいですわ!」
オウ、ジャパニーズジャンピングドゲザ!
以下、次回! 握手の習慣は無いのに土下座はあるんかい。




