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32「レンドルフは御礼がしたい」


 ムニスはレンドルフに対して、こう提案した。


「レンドルフ殿、魔結晶を使って良いならなんとかできるがの。如何か?」

「殿はいらん、ムニス嬢。馬車を街路に戻せるというのか?」

「うむ。積み荷の魔結晶は全て使わせて頂くがの」

「それで構わない。お願いする」

「あい分かった。主殿も、それでよいな?」

「アッハイ。オマカセシマス」


 ここまで来たらもうあとはムニスに丸投げだ。俺にできることはムニスを信じることだけだ。っていうとめっちゃ良いこと言ってるみたいだろ。何もしてないんだぜ?


「では」


 とムニスは軽い足取りで馬車に近付くと、「おう、よしよし」と馬を撫でまわしてから馬車に乗り込んでいった。魔結晶の入っているであろう箱を持ち出し、蓋を開け、なんということでしょう。魔結晶食べ始めたんですけどあの神剣!?


「え、あのさ、魔結晶の使い方ってあれで合ってる?」

「そんなわけあるか! なんなんだあの娘は!?」

「いやあ、それはですねえ」


 と、ごにょごにょしてる間にムニスは魔結晶を全部食べ終えていた。


「なかなか美味であったの。よし、やるか」


 と、ムニスが手を天にかざしたと同時。


 轟!


 風が啼いた。

 風は馬車を中心に渦を巻きやがて無風となった。

 そして、


「ふん」


 両手を楽団の指揮者のように動かすと、馬車が浮いた。馬もだ。

 馬車と馬はふわふわ宙を移動し見事着地。街路に復帰した。


「くっふっふ、ざっとこんなものよ」


 どやぁ、と言わんばかりのムニスを拍手で迎える俺。


「さすがムニス! 天才! 最高!」

「ふふん。もっと褒めよ。称えよ」


 と、いつものノリをやってる横でレンドルフは、


「無詠唱で、この繊細な制御を行うだと……」


 絶句していた。

 まあ、そうね。気持ちはわからんでもない。


「ムニス嬢、感謝する。無傷で道に戻せるとは思わなかった」

「よいよい。我が主の決めたことじゃ。それに魔結晶を食ろうたからの、無傷は言い過ぎじゃの」

「失礼ながら、貴女ほどの使い手が何故タクシ如きに仕えているのです?」


 おいコラ! 全部聞こえてますよ!

 俺が睨むとレンドルフは慌てて言葉を取り繕った。


「あ、いや、すまぬ。貴公の善意にも感謝はしているのだ。しかし」

「くっふっふ。我とタクシは切っても切れぬ、いや、斬れぬものなど無いほどのえにしで結ばれておっての。レンドルフ殿には不思議かも知れぬが我にはこの関係が心地よいのじゃ」


 言い方がくすぐったい。恥ずかしい。

 ちょっと照れてると目敏いムニスが喚いてくる。


「何を顔を赤くしておるのじゃ。生娘でもあるまいに。気持ち悪い奴じゃの」


 やかましいわ!


「失礼した。無用の詮索、ご容赦願いたい」


 レンドルフは謝罪の意を示した。気にすることねえのに。


「構わぬよ」


 ムニスも同じ意見らしい。


「ついては礼をしたいのだが」

「それなら我ではなく、タクシと話してくれぬかの」

「承知した」


 ムニスは会話に飽きたと言わんばかりに馬車に繋がれた馬をいじりに行ってしまった。


「タクシ、この度の貴公の善意には」

「いいっていいって。それさっき聞いたよ」

「うむ。それで謝礼なのだが」

「ん? なんかくれんの? 別にいいんだけど」

「無償で人間が魔族を助ける、だと」

「あのさあ、さっきも言ったけど、その括り、要る? 人間だの魔族だのって」

「……貴公は不思議な男だな」


 一瞬呆気に取られた顔をしたあと、レンドルフは朗らかに笑った。


「大した力があるわけでもないのに、あのような大魔法使いを従え、その言動は王もかくやと。貴公、何者だ?」

「しがない旅人ですけど?」


 買い被りが過ぎる。勘弁してください。


「納得いってねえって顔だね」

「ともあれ礼だ。礼をさせてくれ」


 以下、次回! 御礼といわれてもなぁ。俺、なんもしてないんだけど。


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