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30「困った時のムニえもん頼り」


 現状を整理しよう――


 魔族の男の馬車自体は無事、馬も無事、魔族本人も無事。

 ただし街路に馬車を戻すのは素人目にもかなり厳しめ。

 なかなかの急斜面を登らないといけない。

 ここまで降りてくるのだって俺にはまあまあ大変だった。

 迂回路は見た感じ皆無。


 うーん、詰んでる。


「助けてムニえもん」

「誰がムニえもんじゃ。変な呼び名をつけるでないわ」

「マジでなんか名案ないすかね?」

「タクシよ、おぬし当然何か考えがあって助けにきたのじゃろ?」

「いや、衝動で。目に入ったんで。大変そうだなって。なんか手伝えることあるかなって」


 俺とムニスのやりとりを見ていた魔族の男は、片手を額に当て首を振った。


「貴殿ら、無策とは……」

「おいおいムニス、依頼主に呆れられてるぞ!」

「それよりも主殿とひとくくりにされるのがそこはかとなく屈辱なのじゃがの」

「オマエ、最近ホントに口悪くなったよな」

「主殿の悪影響じゃろ」


 まあ、漫才はこれくらいでいいだろう。


「なあお兄さん」

「誰が貴様のお兄さんだ!」


 超ベタな返しがきた!


「そんな妹に求婚しにきた男に言うみたいなセリフやめてくれよ。名前知らねーんだからしょうがないだろ。あ、俺はタクシ。んで、こっちがムニス」

「よろしくの」

「……私はレンドルフだ。レンドルフ・ルッヘンバッハ」

「レンドルフさんか。よろしく!」


 俺は右手を差し出した。


「なんだその手は」


 あれ?

 ちょいちょい、とムニスが左手に触れてくる。


『主殿、この世界には握手(しぇいくはんど)とやらの風習はないからの』


 ありゃま。さいですか。


「ええと、これは俺の故郷の風習で手と手を繋ぐことで仲良くしましょうとか契約成立、とかそういった場合の所作といいますか何かそんな感じです」

「魔族と、人間がか?」

「それ、今なんか関係ありますっけ?」


 そう答えると、レンドルフは怪訝そうな顔をした。


 あれ?


 俺ではなくムニスに向かって、


「ムニス嬢、この者は――」

「うむ。誰が相手でも大体いつもこの調子じゃの」


 ムニスは笑顔でそう答え、レンドルフは頭痛を我慢するような顔をした。


「……そうなのか」

「面白かろ? 我の自慢の主殿じゃからの」

「フン」


 レンドルフはやり場のない俺の右手を握ってくれた。渋々、不承不承、仕方なく。


「これでいいのか?」


 だが、その手にはしっかりとした熱と力があった。


「へへっ。どーもどーも。よろしくどうぞ」

「嬉しそうじゃの、タクシ」


 そういうムニスも嬉しそうにしていたが、突っ込むのは野暮だと思ってやめた。


 以下、次回! これぞ異文化(異世界)交流って感じだな。

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