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29「新たな出会いと新規クエストの発生」


 街路から馬車の転がり落ちている場所までは崖ってほどではないが結構な傾斜。

 御者の人が立ち尽くして途方に暮れているのが見える。


「主殿?」


 どうする、と言わんばかりのムニスの問い掛け。

 どうする、って言われても見ちゃったからなあ。


「こっちに来る前、まあ死ぬ前の世界の言葉にな、義を見てせざるは勇無きなり、ってのがあってな」


 俺がしたり顔で言うと、ムニスは試すような口ぶりで、


「相手が魔族でも、かの?」

「あの銀髪の人、魔族なのか?」

「うむ。明らかに人間の魔力とは質も量も全く違うの。その上銀髪。目の色を確認せねばわからんが、おそらく純血種の魔族じゃろうの」


 純血の魔族、ね。


「でもソレ今関係なくね?」

「くふ。おぬしならそう言うと思うたわ」


 俺は街路から、傾斜のある崖下まで注意しつつ下りて行く。

 その横をひょいひょい軽い足取りでついてくるムニスに若干いやかなりの格差を感じるな。


「おーい! だいじょーぶかー?」


 俺は馬車の横で途方にくれている銀髪の男に声をかけた。


「なんだ貴様は! そこで止まれ!」

「ちょっ! おまっ!」


 男は警戒感を露わに、俺に警告を発したが、止まれと言われても傾斜じゃ急に止まれない。


「ちょい待ち! 勢いがついてて止まるのは無理だ!!」

「どんくさいのう主殿は」


 最終的に俺はバランスを崩して転倒。ムニスは綺麗な着地をキメていた。


「なんだ貴様ら! さては窮地に付け込んでの追剥ぎの類か!」


 銀髪紅眼。純潔種の魔族。

 どうでもいいけどその両手の魔法の炎、どうするつもりかねアナタ!


「待て待て待て! 人間見たらすぐ敵認定するのやめろって! ほんとに!」

「……む」


 訝し気な魔族の男に、俺に代わってムニスが告げた。


「のう御仁、この男一見して無能じゃが実態は無害にして無能。そのくせ空前絶後のお人好しよ。御仁の窮地を見かねて道を降りてきた次第じゃ。どうか一旦その炎は収めてくれぬかや?」

「おいムニス。半分以上俺の悪口じゃねえか」

「しょうがなかろ。事実じゃもの」

「ぐぬぬ」


 俺たちの馬鹿みたいなやりとりを見て、魔族の男は口の端を微かに歪めた。


「フッ」


 両の手の炎の魔法を消した。


「お、やっと笑ったな。笑う余裕が出たなら何よりだ」

「貴公らのやり取りを見て警戒するのが馬鹿らしくなっただけだ」

「そいつは結構。困ってんだろ? 手ぇ貸すけど?」

「有難い。この馬車を街路まで戻したいのだ」



 以下、次回! 新規クエストが発生しました、ってとこか。さてどうしよう。

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