28「恒例の地理の勉強の時間です」
シェイルに見送られ、俺たちは魔王の居城を目指す。
人気の少ない西の街路を進むと景色から人工物の類はすぐに見えなくなった。
人の(?)手が入っているのは街路だけだ。
そこを西に向かっているのも俺たちくらい。西から来る人影もほとんどない。
「魔王ってどこに居るんだ? やっぱそれっぽい崖の上の城だか王宮だかにいるのか?」
「まあ、似たような所にはおるの。前に少し話したじゃろ。我はその場所を知っとるよ」
「大陸で言うとどの辺になる?」
「西の端っこじゃの」
この世界の地図と日本地図の本州を頭の中で並べてみる。
「あー、広島――じゃなかった山口のあたりか。遠っ」
「西へ向けては中央自治区からも定期便の馬車など出とらんからの。自分で仕立てるか依頼するしかないんじゃが、魔王領行きなど命知らずの中央自治区の連中もお断り案件じゃからの。手持ちの金貨すべてはたいても無理じゃな」
「うーむ、勢いで出発したのはまずったか? 馬くらいいたほうがよかったかな?」
「主殿は馬に乗れるのかの?」
「乗ったこともねえな……」
乗馬クラブとかいうのはあっちの世界にもあったけど、そういうハイソな趣味とは縁遠かったもんなあ。
「結局のところ地道に歩くしかなかったわけだ。ま、修業と思えばいいか」
「えらく前向きじゃの」
「旅の道連れがいるもんで。しかもこの世で一番頼りになるときてる」
「くふふ。それは良かったの」
一人旅だったら途中でとっくに野垂れ死んでるよなあ、俺。
俺はドラコノース三刀流の歩法の真似事をしながら歩きつつ、ムニスに質問を続ける。
「西側の魔王領ってどんな感じなん? ペンペン草一本生えてない荒れ地ばっかりだったりする?」
なんか魔界、ってそんなイメージあるじゃん?
「植生の話かの? 東側とそう大差ないぞ。別に人間が住めんこともない。単に魔族という種が集落を作っている、というだけの話じゃからな。ただ、魔族は人間と殆ど交流せんからの。住もうとしても排斥されるか、悪くすれば殺されるかじゃの」
「そりゃまた物騒な話だ」
「うむ。その魔族の最大の特徴はの、生まれつき魔力が高いことじゃ。他は大して人間と変わらぬよ。純潔種であれば銀髪紅眼じゃの」
魔力が高いだけ、か。
それだけの違いでどうして没交渉状態なうえに東西で対立するんだ? よくわからん。
と、考え事をしていたら街路が大きく右にカーブしている箇所に差し掛かり、
「あらまあ大変だな、こりゃ」
カーブを曲がり損ねた馬車が街路から転がり落ちているのを発見した――
以下、次回! 俺は馬車を助けてもいいし、見なかったことにしてもいい。




