27「鍛冶屋からの選別。それと約束」
翌朝、俺とムニスはシェイルの工房を訪ねた。
「たのもーう」
「お邪魔しゃーす」
「ムニス様、おはようございます。タクシよ、今日は闘技会の決勝だがうちに来ていていいのか?」
「あー、うん。決勝は見ずにもう出発しようと思うんだけどさ」
「小剣の納期は舞踏会閉会後のはずだったな?」
意地の悪い笑みを浮かべるシェイル。
「ごもっとも」
俺は両手を顔の前で合わせて腰が直角になるまで頭を下げた。
そのままの姿勢で俺はお願いする。
「なんとか納期早めてもらえないっすか?」
フンとシェイルは鼻を鳴らすだけで何も言わない。
駄目か。
まあしゃーないわな。
「くふふ。あまり我の主を苛めてくれるな、シェイルよ」
「ムニス様、申し訳ございません。タクシよ、顔を上げろ。剣なら仕上がっている。持っていけ」
えっ?
俺はがばっと顔を上げ、
「だってさっき――」
「納期の確認をしたが、仕上がっていないと言ってはおらんぞ」
「くっふっふ」
「はぁーん!? なんだそりゃ!」
騙されたー!
「持っていけ。ムニス様には無論及ばぬが切れ味は保証する」
シェイル自ら俺のベルトに小剣の鞘を付けてくれる。
膝を折ってこんなことをしてくれるなんて、出逢った頃の態度からは想像もできない。
俺、なんかしたっけ? 覚えはねえけど? なんでだろ? やっぱムニスのおかげかね。
「何故出発を早めたのだ?」
手を動かしながら尋ねてくるシェイルに俺は簡潔に応じた。
「ちょっくら魔王に会いに行ってくるわ」
俺の言葉にシェイルは目を見開いた。
信じられないものを見るように俺の顔をまじまじと見てくる。
「正気か?」
「おう」
「理由は?」
「東西で対立している理由を自分で確かめたい。東の言い分はここまでの道中でまあまあわかった。あとは西だ」
「魔王領か。死ぬぞ」
「ムニスがいるから大丈夫だよ」
ムニスは黙っていたが、口元が少しだけ笑っていた。
シェイルが気遣わしげに口を開く。
「タクシ、ムニス様の前の従者は――」
「知ってる。ムニスは知識を授けてくれるだけだ。決めるのは俺だ。俺は勇者なんてガラじゃないけど、なんとなくやるべきことは見えてきた気がするんだ。それをはっきりさせるために魔王に会いに行く。意外と気のいい奴かもしれないだろ?」
「馬鹿だな」
うわお、バッサリ。
「馬鹿じゃろ?」
そこにムニスも乗ってくる。
いやそこは否定しろよ。
剣の主が馬鹿呼ばわりされてるぞ。
「大馬鹿者ですね、ムニス様の今の従者は」
「くっふっふ。しかしおもしろかろ?」
ベルトに二振りの小剣を提げ終えたシェイルは立ち上がった。
そして微かに笑い、
「タクシ、この二振りはくれてやる。だから無事に戻って私に顔を見せに来い」
「いいのかよ? 金なら払うって」
「餞別だ。持っていけ。その代わり約束を守れ」
「んじゃ、お言葉に甘えて。死ぬ気はねーからまた来るわ」
「どこまでも軽い男だな、貴様は」
「さてタクシよ、そろそろ行くかの」
「おうよ」
シェイルは表まで見送りに出てきてくれた。
独特の所作で祈りを捧げ、
「数多の精霊の加護があらんことを」
「さんきゅ。ちょっくら行ってくらあ!」
以下、次回! 目指せ魔王領ということで!
次回から第三章です。




