25「矢の雨も怖いが美人なおねえさんも怖い」
矢が飛んでくる。
死角から正確無比な矢が飛んでくる。
文字通り雨のように矢が降ってくる。
なのに射手は見えない。
阿鼻叫喚の地獄絵図が予選第七組で展開されていた。
「迷彩の術じゃな」
「魔法使ってるのか?」
「精霊術かの」
「魔法と精霊術の違いっていうと、魔法は自分の魔力やらなんかの魔力リソースを使って、精霊術は精霊の加護なり助けなりを借りるってのがよくあるパターンなんだけど」
「大体合っとるの。えらいえらい」
幼女がいいこいいこしてくんな! 恥ずかしいだろ!
それはさておき。
矢を食らった連中はバタバタ倒れていく。
「毒矢?」
「痺れ薬じゃろ。見たところ半日は立てんくらいの調合かの」
「殺すつもりはない、ってこと?」
「そんなに優しいわけがなかろ。殺るならいつでもやれる、という意味じゃの」
「あー、こわいこわい」
全員を痺れ矢で倒しきった後姿を現したのは細身の青年だった。
エルフの。
「エルフってこんな俗な大会に出るもん?」
「たまにああいうのが出るのじゃよ。神秘の森にある悠久の平穏を享受することに飽き、それを厭う者がな。それを手にしておることの幸運の意味を知らぬ愚か者よ」
平穏の意味、ね。
ムニスはきっと、前の持ち主の獣人の彼のことを思い出してるんだろう。
俺の目から見ても獣人種の扱いは酷すぎる。
でも俺には何も言えない。何もできないから。今は、まだ。
最後の予選第八組にも女の子というかおねーさんがいた。
まあなんといいますか目の保養になるスタイルと恰好の。
「主殿?」
「おう」
「どこを見ておる」
「おう」
「殴るからの」
「おう」
「せいっ」
「おうっ!? 何しやがんだムニス!」
「おぬしが我の話を聞かずに女性に惑わされとるからじゃ」
「ば、馬鹿言うんじゃありません! 俺は強そうなやつがいないかなー、って闘技場を見てたんだよ!」
「乳と尻とどちらがよかったかの?」
「うーんどっちも捨てがたいけど腰のラインがね、芸術的だよね」
「こういうのを語るに落ちたというのじゃ」
今度は軽くチョップされた。
「サ、サーセン」
「ふん。我の体では満足できんか。そうかそうか。ま、仕方ないわの」
周囲の観客の視線がぐわっ、と俺に注がれえる。
「ちょっ! おまっ! デカい声でそういう誤解を招く発言をするのやめて!? ねえ! お願いだから!」
「ふん」
ご機嫌斜めだ。
「タクシが目にとめたのは猥褻目的だとしても、あの小娘はそれなりの使い手のようじゃの」
「だろ? だと思ったんだよ!」
「よう言うわ。あの小娘の武器が何か分かっておるかの?」
「鞭持ってるよね」
「まあの。じゃがアレはオマケよ」
開戦の銅鑼が鳴る。
が、誰も動かない。
「もう終わっておる。おそらく第八組の待ち時間の間にの」
「はっ?」
「ここの闘技場は闘技者の控室がみっつあっての。ひとつは奴隷剣闘士のもの。ひとつが予選及び勝ち抜き戦で使用するもの。最後が明日の勝ち抜き戦のみで使用するもの」
「つまり今日は全員同じ控室に詰め込まれていたってことか?」
「第五組を勝ち抜いた奴隷剣闘士の獣人以外はの。その狭い空間であの小娘は魅了の魔法を垂れ流しておったのよ」
「え、そんなんあり?」
「有りか無しかは我が決めることではないのでな」
闘技会的にはセーフということらしい。
ともあれこれで予選がすべて終了した。
以下、次回! さて、本戦はどうしよっか。




