20「神剣を知る鍛冶屋の男とは」
開いたドアからものすごい熱気が流れ出てくる。
炉があるせいだな。
赤々と燃えているのが見える。
「誰だ! 勝手に入ってくるな!」
おそらく小屋の主と思われる人物に怒鳴られた。
デスヨネー。
「くふふ、精が出るのう。最強の剣とやらはまだ出来とらんようにみえるがの」
「あっ! 貴女様は!」
小屋の主は立ち上がりムニスに一歩、二歩と近づいてきた。
俺はムニスを庇うように前に出る。
若い。美形。そんで背ぇ高けえなこの人。
つーか耳長っ。ってことは、エルフか。ん? エルフの鍛冶屋? は? なんか変じゃないか?
「その小僧が今の従者ですか、神剣様」
「うむ。久しいの、シェイルよ。息災にしておったかの?」
「ははっ。神剣様もご健勝で何よりです。また、先程は失礼いたしました」
「構わぬ。それとの、今はムニスと名乗っておるでの。そう呼んでくれ」
「ムニス……様」
「うむ。このタクシが銘無しの神剣に名をくれたのよ」
「なんと不敬な。人間如きが」
ぺっ、と唾でも吐き捨てそうな勢いだった。
ムニスと俺とで態度違い過ぎでは?
「あぁん? エルフ様がどんだけお偉いか知らねーけど初対面でそれはねーんじゃねえか? 名付けはムニス本人からの依頼だ。文句あっか」
「やめよタクシ。シェイルもじゃ。我はこの名を気に入っておる」
険悪なふたりの間にムニスが割って入る恰好になった。
シェイルも俺も渋々ながら矛を収める。
「左様ですか。悪かったな小僧」
「わかりゃいいんだよエルフ様」
シェイルは俺を見下ろし、俺はヤツを見上げ睨み合う。
「おい小僧」
「なんだよエルフ様」
「その呼び方をやめろ。私はエルフではない。混血だ」
「ハーフエルフってことか」
「違う」
違うの?
俺の疑念に答えたのはムニスだった。
「シェイルの生まれはちと特殊での。エルフとドワーフの混血なのじゃ。外見にはエルフの血が濃く出ておるがの。水と木、火と鉄の精霊に愛された稀有な男よ」
ハーフエルフドワーフ!?
そういうのもあるのか。
「そういうことだ。とはいえその事実を知る者は少ないがな。だから小僧、私のことは名で呼べ。特別に許してやろう」
「シェイルさん、改めてよろしくな」
「うむ。よろしく、タクシ」
「さん付けしろや!」
「やめんかタクシ。話が進まぬではないか! シェイルよ。今日訪ねたのはほかでもない、このタクシに小剣を二振りあつらえてやってくれんかの」
「小剣を二振り? ムニス様がおられるのに?」
ムニスと似たような発想をする男である。
だが、小剣二振り、という点ですぐに得心したようだった。
「まさかタクシはドラコノース三刀流の使い手なのですか?」
「くふふ。そうなる予定じゃ。で、頼めるかの? 金は勿論払う」
「畏まりました。お代はまあ、タクシが払うのでしょうからいただきましょう」
払う気はあるが、お安くして頂きたいところである。
そんな俺の気持ちをよそに話はどんどん進んでいく。
「うむ。それでよい」
「納期はいつまででしょうか」
「そうじゃの。次の闘技会が終わるまで、じゃの」
「闘技会には間に合わせなくてよろしいのですか?」
「我が主殿はまだまだ闘技会に出場できるような力量ではないのでの」
ムニスはばっさり。
シェイルは俺の顔をしげしげと眺めて、頭の上からつま先まで視線を行き来させた。
「……タクシ、掌を見せてみろ。両手だ」
「おう」
素直に両のてのひらを突き出した。
「……貴様剣を始めて何年だ?」
「剣はえーと、十日くらいか? たぶん。包丁ならガキの頃から握ってたから十年選手だぜ」
「料理人のような手をしていると思ったらそういうことか。剣はド素人なのだな」
シェイルは俺のてのひらと顔を交互に見ながら、
「その素人が何故ムニス様の従者をしているのだ?」
と尋ねてきた。
俺が反射的に「あ、俺が従者の方なのね」と言うと「当たり前だ!」と怒鳴られた。
怒りっぽいやつだな。
「しょーがねーだろ、俺が抜いたんだから。あ、違うな。へし折ったんだったわ」
「何ィ!? へし折っただと貴様ァ!?」
以下、次回! あーもー、説明するのめんどくせえ!




