19「剣を買うといったら神剣が拗ねた件」
「折よく闘技会が開催されるようじゃの」
と、ムニスが言った。
へえ。
「ちなみにその闘技会って俺も出れる?」
「出れるが、今の主殿では予選で即死してしまうぞ」
「そっかー」
即死はやだなあ。
俺が本気で嫌そうにしていると、ムニスはやれやれ顔で溜息をついた。
「大陸中から腕自慢が集まると言うたじゃろ。なにゆえ勝てると思うのじゃ」
「そりゃムニスがいるから。いけるんじゃねえかなあ、と」
「……」
「どうしたムニス? 呆れてものも言えないってなら悪りい。見通し甘すぎだよな」
「馬鹿者め」
「アッハイサーセン」
「……ばかもの」
「ん?」
「なんでもないわ! 今のタクシに必要なのは闘技会に出ることではなく、闘技会を見ることじゃ!」
どうしてかプリプリ怒りながら、それでもムニスは助言をくれる。
「見る? 今も見てるけど」
「違うそうではない。達人の、特にかの二流派の動きを目に、脳に焼き付けよ。それが我が全知と結びつけばおぬしの剣は確実に上達するじゃろ。我が言うておるのはそういうことじゃ」
「オマエ天才かよ」
俺は素直な称賛した。
ムニスは無い胸を張って鼻を高くする。
「主殿よりは賢い自覚はあるがの。まあ、あとは体力をつけることかの」
体力かぁ。
「とりあえず走り込みでもしようか」
「構わんが物騒な街じゃから、我を担いで走るようにの」
「幼女を?」
「仕方ないからその時は剣の姿になっておいてやるわ」
「かたじけない」
「構わぬよ」
あ、そうそう。
「剣といえばフツーの剣を一本買っとこうと思ってたんだよな」
俺がそう口にした途端、ムニスの表情が険しくなった。
「剣を買う、じゃと?」
「ああ」
ムニスが眉を吊り上げている理由はすぐにわかった。
「我では不満ということかの?」
「ちゃうねん。拗ねるな妬くな!」
「拗ねてもおらんしヤキモチなど妬いておらぬわ! 勘違いするでない! ちょっと腹立っただけじゃからの!」
あーもう! この幼女様はほんとにもう!
「まあ聞けよ。剣はそりゃムニスがいれば十分だけどさ」
とここまで言っただけでムニスはにんまり。ちょろい。ちょろすぎるぞこの神剣。
「ムニスが幼女モードの時、俺って手ぶらでふらついてるように見えるだろ? 剣でも背負ってりゃ冒険者っぽくなるじゃん」
「ま、駆け出しの冒険者っぽくはなるの」
「余計な一言だな全知サマ」
「ふん」
「つーわけで、オススメの武器屋ってどこかわかる?」
「仕方ないのう。まあドラコノース三刀流のことを考えると小剣二本は必要じゃの」
「やったぜ!」
とまあ、そんなわけで俺とムニスは闘技場を出て街外れの工房を訪ねてることになった。
「武器屋じゃないのな」
「顔馴染みの鍛冶屋がおってな。そやつの剣の方がよかろう」
「顔馴染み、って。オマエずっと聖王宮に刺さってたじゃん」
何歳なんだその鍛冶屋。ていうか生きてるのか?
「まあ見ておれ」
町はずれの、こぢんまりした小屋がその鍛冶屋らしかった。
屋根から煉瓦の煙突が突き出している。
ムニスはその小屋のドアを何のためらいもなく開いた。ノックもせずに。
「たのもーう」
親戚の家でももうちょい遠慮するぞオイ。
以下次回! 鍛冶屋のオヤジとご対面です!




