16「はるばる来たぜ中央自治区」
岩山の麓の集落から街道に出て西へ向かう。
前にいた世界で言うと東海道みたいな感じだろうか。
とにかく西へ。
ひたすら西へ。
ただただ西へ。
数日過ぎてもまだ着かない。
一人旅だったら嫌になっただろう道程も旅の道連れがいればそんなでもない。
――と思っていた時期が俺にもありました。
「タクシよ」
「なんだいムニス」
「我は退屈じゃ」
「子供か!」
「子供じゃが!?」
「外見だけはな! そもそも何歳だオマエ!」
「淑女に年齢を聞くとはの! 信じられん奴じゃの!」
「オマエ、一瞬前に子供宣言してたよな!?」
「それはそれ、これはこれじゃからの!」
とまあこんな調子で退屈だの暇だの挙句の果てには、
「疲れたの。タクシ、おぶって欲しいのじゃ」
ときたもんだ。我儘放題か。
「ムニスさん? 神剣モードになってくれると俺も持ち運びが楽なんですけど?」
俺も大概疲れているのでこういった提案をするんだがそうすると、
「ほう。主殿は我をモノ扱いするわけかの。なるほどのう」
拗ねやがる。
「そもそも折れた剣を持ち歩いている旅人なぞ、手配書そのままじゃぞ。そんなにも賞金稼ぎに狙われたいのなら我は止めんがの」
「あー、もう! わかったよ! ほれ、おぶされ!」
まあ確かにムニスの意見も一理ある。ってか百理ある。
フツーの剣もどこかで手に入れとかないといけないかもしれない。それと防具も。気休め程度でも被ダメは減らしたい。いつまでも「たびびとのふく」じゃ締まらんしな。最初の「ぜんら」や「かんとうい」よりはマシだとしても。
ともあれ西に向かって歩いているうちに徐々に集落らしきものや農場、牧場もちらほら。そろそろ着くかなあ。着くといいなあ。何事もないことを祈りつつ、俺はムニスをおぶって一歩一歩進んでいくのであった。
そんなこんなで、ようやくたどり着いた中央自治区。
大聖宮のような外壁なんてものはなく、中心部に向かってだんだんと建物の数と高さが増していく感じ。通行許可も要らんようで自由にみんな往来している。
おおらかというか無法地帯というか。
人がやたら多いが、なんかイベントでもあるのだろうか。
街の目抜き通りをずっとまっすぐに行ったところ、街のど真ん中にある円錐台状の建物が闘技場だろう。
「また少し規模が大きくなったの。この街は」
と、ムニスは言う。
「そうなのか?」
「うむ。かつて訪れた時はもう少しこぢんまりとしておった。流れ者が増えて、自治組織が一応は機能しておる、ということなのじゃろ。ヒトというのはどんな環境でもそれなりに生きていくものじゃの。感心する」
ムニスの発言でちょっと気になることがあった。
「あのさ」
「なんじゃの?」
「その『かつて訪れた時』のムニスの持ち主ってどんな奴?」
興味本位で訊いただけなのだが、ムニスはにたあ、と相好を崩した。
「なんじゃ主殿。我の前のオトコが気になるのかの? 愛いやつじゃの」
「ばっ! ちがっ! そうじゃねえよ!」
「くふふ。照れるな照れるな。我は嬉しいぞ。そうかそうか、これが独占欲というやつなんじゃの。くっふっふ。知識としては無論知っておるが実際に向けられると、こう、堪らん気分じゃの」
「もういい。好きに言ってろ」
くそ。要らんこと聞いちまったぜ。
赤くなかった顔を隠すためにムニスから目を逸らし、街並みと絶え間ない人の流れを眺めていると、
「……タクシよ」
不意にムニスが笑うのをやめ、俺を呼んだ。
「前の主はな、おぬしとは似ても似つかぬ男じゃったよ」
以下、次回! いや、ほんとに興味本位だからね! 嫉妬とかじゃないんだからね! 勘違いしないでよね!




