14「目を覚ますとそこは一面金色の海だった」
遮光性なんてあるわけもないないただの薄い布のカーテンの隙間から、差し込んでくる朝日。
瞼越しにビシバシ光を感じるが、瞼を持ち上げることすら億劫な気分だ。
昨日のデカイゾウ(仮名)を斃した岩山から最寄りの集落まで移動して唯一の宿に泊まらせてもらうことになったという次第であるのだが――
全身猛烈な筋肉痛である。
バッキバキのビッキビキだ。
起き上がるどころか腕を上げることすら困難。
「ん?」
そのビキビキの右腕の先、掌に感触がある。
そうそう、神剣を握って寝たんだったわ。
掌に吸い付くような神剣の握りの部分の感触――ではない。
柔らかいぷにぷにしたこの感触は幼女の手のそれ。
「!?」
目を見開きビギビキの腕で無理矢理にシーツをめくるとそこは一面金色の髪が広がる海だった。
とか詩的な表現はどうでもいい。
要するに幼女が俺の手を握って寝ているのだ。全裸で。
つまり俺は全裸の幼女を掻き抱くようにして寝ていたことになる。
「ムニス!」
「んむぅ、タクシ。昨日の今日で元気がいいのう……」
「おう、おはよう。いや全身筋肉痛でな……ってそーじゃなくてなんで幼女モードなの? そんでなんで全裸なの?」
「主殿は大人の女が好みなんじゃろ? なにゆえ我の裸ごときで顔を赤くしておられる?」
「いいからさっさと服を着ろ! つーか剣の姿で寝るっつってたじゃんか!」
「くっふっふ。意趣返しというやつよの。可愛いらしいものじゃろ。許せ許せ」
ケラケラと笑うムニスに筋肉痛の俺は満足に言い返すこともできないのだった。
「あだだだだだ」
「だらしないのうタクシ。きりきり歩かんか」
「ムニス、ムニス! 頼むからゆっくりで! お願い!」
異世界の宿屋のお約束とでも言うべきか、客室は二階にあった。一階は酒場兼食堂という造りだ。全身筋肉痛の俺はぎこちない動きで幼女に手を引かれて廊下を歩み、階段に至る。
「お、降りれるかな俺」
「ほれほれ」
「こらっ、押すな! 危ない!」
「なんじゃったかの? こういう時は貧弱貧弱ゥとか言うたらええんじゃったかの?」
「使い方間違ってるぞ絶対」
やたらテンション高いなムニスのヤツ。
「あだだだだ。ムニスさあ、なんかいいことあったか?」
「くふふ。内緒じゃ」
「いけずなやつだな」
「ふふん」
ま、神剣様の機嫌がいいに越したことはない。
俺はなんだかんだやりながらムニスの手を借りてどうにか一階まで降りてくることができた。
そこへ、
「可愛い娘っ子に世話されて羨ましいことだねえ」
と声をかけてきたのはこの宿の主人だ。
髭面で丸太みたいな腕と樽みたいな腹をしたオッサンである。
「筋肉痛なんだよ。好きで手ぇ引かれてるわけじゃねえよ」
「むう。タクシ、その言い草はちとひどいのではないかの」
「お嬢ちゃんがむくれてるぞ兄ちゃん」
「あー、ちゃうねん! ちゃんと感謝はしてるって! 言葉の綾ってやつだ!」
「ふん。知らぬわ」
ムニスのやつ、機嫌のアップダウンがめちゃくちゃ激しいな……。
以下、次回! なんと今回、起きて部屋から出ただけ!




