13「(地理の)話をしよう。そうあれは……」
「事前確認じゃがタクシよ、この世界、いやこの大陸の地理は把握しておるかの?」
「全然まったくこれっぽっちも知らないぞ」
「じゃろうな。では地理の話をしようかの」
「お願いシャス!」
そんな感じで全知による地理の講義がはじまった。
「この大陸は北東から南西にやや斜めに伸びた形を取っておってな、その周りに大小幾つかの島が寄り添うように点在しておるのじゃ」
ムニスは地面に石で簡易な地図を描いてくれた。
「あー、本州みたいな形ってことか」
「ホンシュウというのはおぬしが元居た世界の国よの? 形は似ておるやもしれぬが、広さは随分と異なるのぅ」
「でかいの? ちっさいの?」
「でかい。話を続けるぞ。大陸の東側は大聖宮が幅を利かす小国連合よ。西側は魔族と言われる種族の巣窟、東側の言葉で言うと魔王領じゃな」
「んで、名古屋……じゃなかった大陸の真ん中らへんはどっちの領土でもない、って言ってたけど、誰のモンなわけ?」
「ふむ。公的権力の空白地帯じゃの。東西の主要な拠点から離れすぎておって支配権が及ばぬのじゃ。だからあの辺りは西にも東にも馴染めん連中の溜まり場のようになっておるの。ほぼ自治区のようなものかの」
自治区ねえ……。
「ってことは自治組織はあるのか」
「ほう。主殿にしては察しが良いではないか」
「ふふん」
とドヤ顔の俺に対し、
「褒めておらぬぞ。ただの皮肉じゃ」
「ムニスー!」
「くっふっふー」
笑顔を見せながら、ムニスは話を続ける。
「中央自治区には暫定的な意思決定機関としての自治委員会があっての。そやつらが自治区の権力を掌握しておるのじゃ」
「ふんふん」
「ひとつは闘技場を運営する、大会組織委員会」
「ふんふん」
オリンピックのアレみたいな名前だな。
「ふたつめに商工ギルド会。これはまあ商人の集団じゃな。武力はさほどでもないが敵に回すと厄介極まりない」
「ふんふん」
「みっつめは冒険者ギルド。傭兵やならず者に仕事を斡旋する組織じゃな。タクシが一番関わることになると思うのぅ」
「ふんふん」
「最後に暗殺者ギルド。盗み、強請り、殺し、なんでも請け負う連中の集まりじゃ」
「ふんふん……んん!?」
こえーよ。怖すぎるよ暗殺者ギルド。絶対近寄らんとこ。
「中央自治区は良くも悪くも自由な場所じゃ。人の出入りも多い」
「一旦身を隠すにはもってこいってことだな」
「闘技場もあるしの」
それよそれ。実際にこの世界の剣技を間近で見ることができる。
「よっしゃ。じゃあ中央自治区目指してレッツらゴーだな!」
「それは明日からでよかろ」
「む。じゃあ今日は宿を探して一泊して、移動は明日からってことか?」
俺が訪ねると、ムニスは「ウム!」としかつめらしい顔で頷いた。
「タクシが寝とる間に我が全知より件の剣術の指南書と大陸の地図の知識を引き出し、おぬしの頭の中に入れておいてやろうと思うての」
「それ、どうやってやるんだ?」
「なあに簡単じゃ。我を握って寝ればよい。あとはこちらでやっておいてやるからの」
誠にありがたいはなしなんだが、
「幼女の手ぇ握って寝ろってコト!? 前も言ったけど幼女と同じベッドでは寝れねえよ」
「馬鹿者、我は剣の姿になるに決まっておろう! この隠れ幼女好きめ!」
「ご、誤解だ! 俺はバインバインの大人の女の方が好きだ!」
「…………ふん。幼女体型で悪かったの」
ムニスはへそを曲げてそっぽを向いてしまった。
この全知の神剣、なにげに扱い難しいよな……。
ムニスの機嫌を直してもらうのにえらい苦労したことを、ここに報告しておく。
以下、次回!




