11「神剣曰く『勇気と無謀は別のものじゃ』だそうです」
デカイゾウの頭が爪先を掠めていく。
そのまま猛烈な勢いで俺の横を通り過ぎていく。
間一髪の紙一重。
デカイゾウは岩に激突して動きを止めた。失神とかはしてない。丈夫なヤツめ。
それはさておき今の突進は躱せたが、
「これじゃ駄目だ」
駄目な理由は幾つもある。
ひとつ。俺の視力と身体能力はムニスによって最適化されているが、体力は有限だ。次か、その次か。動きが鈍ればいつか攻撃を食らうだろう。ふたつ。避けてるだけじゃ勝てない。みっつ。避けるのが精一杯で攻撃に転じる暇がない。
「まあ要するに避けてちゃ駄目ってことか」
宿屋の釣り銭で行商人から買っておいた体力回復効果があるとかいうポーションをありったけ飲み、俺は息を整える。気休め程度だが少し楽になった気がする。うーん、値段の割に効果が薄い。ボられたかな。
とかやっている間にゆっくりと方向転換を終えたデカイゾウは改めて俺に照準を合わせたようだ。じりじりと近づいてくる。
さっきより近い距離から突進してくるつもりだ。
トップスピードになる距離が足りるなら有効な戦術だな。こっちの回避が間に合わなくなる。今度は掠るどころか直撃するだろう。獣のくせに、いや獣だからこその知恵か。頭いいな。羨ましいぜ。
もう時間が無い。
覚悟を決めろ。
デカイゾウが加速する。
そら来た!
俺は猛烈な圧力で迫ってくるデカイゾウに正面から相対した。
逃げたいが、逃げない。躱さない。
今の俺が勝つためにはこれしかない。
デカイゾウが咆哮と共に迫る。
「おらあっ!」
俺はそのデカイゾウ目掛けてまっすぐに駆け出す。
食らう前に当てる。
ボクシングで言うところのカウンターの要領。
突っ込んでくるデカイゾウに突っ込んでいく俺。
怖え! けど怯むな!
剣を下段に構えと言えないレベルで携え、疾走る!
視界の全部をデカイゾウが埋め尽くした瞬間。
激突の直前。
「うおらぁああぁぁぁぁっ!」
俺は全力スライディングを敢行した。
潜れ。
……潜れ!
潜ったぁ!!
即座に神剣を真上、つまり俺の上を通過していくデカイゾウの喉元目掛け振り上げ突き立てた。神剣の切れ味とこの相対速度があれば勝手に真っ二つになるはずだ! たぶん!
「結果だけ見るなら成功しとるがの、タクシよ」
幼女に戻ったムニスは滅茶苦茶に怒っていた。
俺は首から腹まで切り裂かれたデカイゾウの傍で正座していた。させられていた。
「あ、はい」
「おぬし、勇気と無謀を履き違えとりゃせんかの?」
腰に手を当てて教師が生徒を叱るようにムニスは言った。
「すんません」
「言うたよな? 我は知恵を使うものを好む、と」
「はい」
「して、おぬしの特攻、知恵を使ったつもりかの?」
「はい。そのつもりなんですけどぉ」
「正気か……」
ムニスは「うそやろ」みたいな物凄い表情を浮かべて俺を見てくる。
そんな顔しなくてもいいじゃん……。
「あのデカイゾウ、回り込んでも死角がなかったし、回避しても追尾してくるし、それなら正面から滑り込んで下に潜り込んでやろうかと思って」
俺の考察と作戦を一気に伝えると、
「ふむ。一応何も考えてないわけでもなかったわけだの」
「そうなんす」
「馬鹿者! 誰が立って良いと言うた!」
「サ、サーセン!」
「おぬしは死角が無いと言うたがの、アレの死角は真上よ。一度撤退し、アレの視界の外から、そうじゃのたとえば岩場に登って上から飛び掛かるとかの。そもそもおぬしは……」
ムニスの小言はその後も小一時間続いたのだった。
以下、次回! なお、正座のしすぎで足が痺れました。




