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105「報酬と、その追加」


 ギリギリだった。

 オースが来てくれなかったら、ムニスとオースが手を伸ばしてくれなかったら間合いも威力も足りなかったはずだ。

 紙一重の勝利だった……。


 などと余韻を楽しむ暇もなく、俺は()()()()()()()


 ココ、どこだ?


 間違いなく大聖宮ではないな。

 だって俺、浮いてるし。ムニスもオースもいないし。

 ヤツの最後の悪あがきだろうか。


「勇者タクシよ」

「うお、びっくりしたあ!」


 後ろから話しかけるんじゃねえよ。

 誰かと思ったら自称女神か。


「ってことはここは俺が元の世界(あっち)で死んだ時にきた謎空間か」

「そうです」

「で、何の用だ?」

「約束を果たしにきました。勇者タクシよ、あなたは私の予想以上の成果をこの短期間のうちに果たしました」

「へえ」


 約束、ね。

 この自称女神はあの女にも同じようなことを囁いて俺たちを食い合わせたわけだ。

 そんなヤツに約束と言われても、正直なんとも。まあ貰えるものは貰う主義だ。


「あなたの撒いた種はやがて世界を覆い、平和で満たすことでしょう」


 それはどうかな、と俺は思った。人には欲ってもんがあるから。

 豊かになればなるほど、それは強く大きく、抗い難いものになる。

 この先平和になるかどうなるかはぶっちゃけわからん。

 だが、今それを口にすることに意味はない。せっかくいただいた過大評価だ。

 慎んで受け入れよう。


「そりゃどーも。『でも手練手管に問題があったから約束は無効です』とかは言うなよ」

「人の世で人が為すことです。神は赦しますよ」


 偉そうに。赦すときたもんだ。


「じゃあ、約束だ。真那を治してやってくれ」

「はい。約束通りに、心と体の傷を全て癒しましたよ」


 謎空間に映画のスクリーンみたいなのが現れ、どこぞの病室が映る。

 医者や看護師が大騒ぎしている中、真那はベッドの上できょとんとしている。


「いかがですか?」


 この映像は幾らでも捏造できる。

 だが、事の真偽を確認する術は無いのだ。俺はこれを丸のまま飲みこむ以外に選択肢がない。


「オーケーだ。ありがとう」


 これでようやくミッションコンプリートだな。


「勇者タクシよ」

「なんだよ。まだなんかあるのか? できればさっさと元の場所(大聖宮)に戻りたいんだが?」


 帰れないとか言うのだけは勘弁しろよ、と内心(おのの)いていると、

「あなたの成果を評価して、特別サービスです」

「特別サービスぅ?」


 テレビのショッピング番組や訪問販売にありがちなセリフだな、と俺は警戒感を強めた。


「もうひとつ、あなたの望みを叶えてさしあげましょう」


「は?」


「もうひとつ、あなたの望みを叶えてさしあげましょう」

「マジかよ……」

「はい。元の世界に戻ることも選択できますよ。勿論、健康な体で」


 こりゃまた随分な高待遇ですこと。今回の結果がそんなにお気に召したんだろうかね。

 それにしても、(あっち)の世界か。今更だな。


「戻る選択はねえよ。もう未練はない」


 真那が無事なら、もういい。

 それより、異世界(こっち)に未練というか気がかりが山盛りであり過ぎる。

 だから俺はこっちでいい。

 いや、違うな。そうじゃないな。

 俺は異世界(こっち)がいいんだ。


「あのさ、俺っていずれ老衰かなんかで死ぬじゃん?」

「不老不死は流石に無理ですよ」

「いやそうでなくて――」


 俺は自称女神に追加報酬の希望を告げた。



「――わかりました。その願い、いつとは断言できませんが聞き入れましょう」

「よろしく。まあ期待せずに待っとくわ」

「それではこれで。勇者タクシ、お疲れさまでした」

「できれば二度と会わないことを祈ってるぜ、女神様」





 そして、俺は元の場所――大聖宮に戻ったのだった。

 俺の姿に最初に気付いたのはオースだった。


「あー! 御主人様! どこに消えてたんですかもう!」

「タクシ! 無事かの? 大事ないかの?」

「オース! ムニス!! オマエらこそ大丈夫か?」


 笑顔で頷く二人。

 点呼よーし。


「じゃあさっさと帰るぞ。なんせこちとら神託の巫女殺しの大罪人だからな!」

「最悪じゃないですか! それでしたらお先しまーす!」


 オースが先に走りだし、俺とムニスが二人並んでアホを追う形。


「くふふ」

「急に笑い出してどうした?」

「はじめて主殿と出逢った時と同じじゃな、と思っての」

「あー、あん時も逃げだしたんだよなあ。でもさ、今は俺たちふたりじゃないぜ」

「うむ」

「オースもいる」

「いますよー!」


 先行するアホの子が振り返って両手をブンブン振ってくる。

 聞こえてんのかい。


「フェイもいる」


 どうやら聖騎士相手でも無事だったようだ。階段の途中で合流した。

 労いは後だ。一言「逃げるぞ」と告げる。

 フェイと斬り合っていた聖騎士はおとなしく道を開けてくれた。

 彼も彼なりに考えや立場があるのだろう。知らんけど!


 帰りの道中でレンドルフたちの無事も確認できた。

 巻き込んでしまった連中は全員無事で、俺の罪状に激烈に重いヤツがいっこ増えただけ。

 この上ない戦果だ。

 俺は満足している。

 さ、帰ろ帰ろ。


 ――これから先も生きている間は、きっとなんやかんや事件や出来事に俺は出くわすことだろう。だが、この俺の、勇者役を演じていただけのひとりの復讐者の物語はここで一区切りだ。



 以上! 終わり!

このあとエピローグの後日譚があります。もう少しだけお付き合いいただけますと幸いです。

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