103「積み上げてきたもので死線を越えろ」
俺は手持ちの魔結晶をじゃらじゃらとムニスに手渡した。
「俺が仕掛けるからムニスは魔法で援護してくれ」
「わかった。死んでくれるなよ、我が主よ」
「おうよ」
「あら、さっきの女の子はもう来ないんですか?」
「ここからは俺と相棒で相手してやるよ」
「そうですか。では――」
ヤツが右手をかざすと同時に、無数の魔法陣がヤツの掌に、背後に、周囲に展開される。
「――死んでください」
視界を埋め尽くす死の先触れ。
一発でも当たれば後続の魔法で延々打ちのめされて殺されるに違いない。
だから今は躱せ!
身体操作は全知の神剣がとっくに最適化してくれている。
体はここまでの旅の間少しずつ、けれどずっとずっと鍛えてきた。
はじめての実戦で戦ったデカイゾウ(仮名)の方が絶対怖かった。
闘技会で見た連中の方がずっと技が練れていた。
稽古をつけてくれたレオンハルトさんの剣速の方が間違いなく速かった。
コーネリアの魔法の方が無駄に元気と勢いがあった。
オマエの力は全部借りモンだろうが!
避けろ!
オースが言っていた。目線が動きますから、と。
今だ!
右に避ける。躱した。そのまま前へ一歩。
振った体の横を死の塊が通過していく。
怯むな!
僅かずつでもいい、距離を潰していけ。
ドラコノース三刀流の基礎を思い出せ。
ムニスが知識をくれた。
嫌になるほど繰り返した。
そしたらそのうち楽しくなってきた。
基本の歩法。
基本の体捌き。
全部基本通りに。
無駄なことは何一つなかった。
何か一つでも欠ければ、ここまで辿り着くことさえできなかったはずだ。
右、左、右、右、前!
一歩下がったら二歩前に出る。
あと少し。
あともう少しで俺の、俺たちの間合いになる。
「しつこい!」
魔法が命中しない焦りからか、ヤツは一際デカい魔法陣を虚空に描く。
馬鹿が。
隙だらけだ。
こういう勝負は焦った方が負けるんだよ!
俺は魔法陣を大きく迂回するような軌道でヤツに迫る。
すると、ヤツの横顔――口元がにいっと歪んだのが見えた。
「馬鹿はあなたですよ」
デカいのは囮かよ!
俺の体を容易く貫通する威力だろう魔力の塊が、散弾銃の如く殺到する。
点ではない、面の攻撃。
避けられない。
命中。その後も命中、命中。更に命中。
あ、死んだわ俺。
と、元の世界で殺された時のままの俺なら思っていたことだろう。
「――やれやれ、世話のかかる主殿じゃの」
ムニスが防御障壁を分厚く展開し、防いでくれていた。さすぜん! 信じてた!
そして、
「タクシよ、愚妹がやりおったぞ! そやつへの魔力供給は途絶えておる!」
オース仕事早い! あとでめいっぱい褒めてやる!
「っしゃあ!」
以下、次回! こっからは俺のターンだ!




