102「勝ち筋は見つけたけどアホの子が頼りです」
「ムニス、巫女長の居場所を割り出せるか? 大至急だ」
「我は探知系の魔法はあまり得手ではないんじゃがの。そうも言うておれんか。しばし時を稼いでもらえるかの?」
アレを相手に俺一人じゃ時間稼ぎは無理だな。
「オース、手伝ってくれ」
「はーい!」
コイツが居て良かったわー。マジで。
「なるべく急ぐとしようかの」
「じゃ、行くぜ!」
柱の影から俺とオースは左右に分かれて飛び出した。
疾走る。
追い立てるように魔力の塊が足元に着弾していく。
遊ばれてるんだろうか。それならそれで好都合だが。
それにしたって魔法の連射速度が速過ぎて俺では近づけない。
だが、
「ウチのアホの子は速いぞ」
「誰がアホですかー!」
オースは叫びながら躱す躱す躱す。
いつものまっすぐ歩くだけの動きとは異なる、絶妙な方向転換で魔法を避けまくり、ついに懐に入り込んだ。
「ちっ」
「遅い! ですっ!」
オースの掌底がメンヘラ女の顎を横から打っ――
ガラスが連続して割れるような音がした。
「防御障壁!?」
「オース! 一旦下がれ!」
「死になさい」
メンヘラ女が醒めた声音で言うと、一瞬前までオースのいた場所の床と天井から巨大な氷柱が生えていた。
「うーん。腰が入ってなかったですね! 二枚しか割れなかったです」
「何枚重ねてるかわかるか?」
「五枚くらいじゃないですかね、手応え的に」
「マジすか」
「マジです」
一方のメンヘラ女は余裕綽々だ。
「諦めたらどうですか? おとなしくすれば楽に殺してあげますよ?」
「人をハモの骨切りにしてくれたヤツの言うことじゃねえな」
「あら、よくご存じ。今度は豚の丸焼きなんてどうかしら」
「ほざいてろ」
いつまでも軽口を叩いていられると思うなよ。
「オース、もっかい行くぞ。今度は左右逆でやる」
「はいはいー。御主人様も頑張って剣の間合いまで近づいてくださいね!」
「ハイ! スンマセン!」
「魔法撃つ時に目線が動きますから、それで着弾点をいい感じに先読みしたら当たりませんから!」
「アッハイ」
そんな芸当できるか! やってみるけども!
「がんばりましょー!」
――何度目かの特攻が失敗に終わった頃、
「タクシ!」
ムニスに呼ばれて、俺は柱の影まで後退する。
オースがひらひらと攻撃魔法を躱してくれている。
「巫女長の居る場所は割り出した。……じゃが、どうするつもりかの?」
「オースに場所を教えてやってくれ。んで、オースを大至急そこに行かせて巫女長を気絶させる。これで魔力供給は遮断できるはずだろ」
「なるほどのぅ」
これしかあの魔法の雨霰を止める手段は思いつかなかった。
「じゃが、愚妹無しであの娘の攻めを凌ぎ切れるかの」
「このままやっててもそのうち捕まると思う、特に俺が。まだ体力が残ってる今しか仕掛けられねえ」
「危険は承知の上かの。あいわかった。――オースよ! 近う寄れ!」
珍しく名前を呼ばれ、オースは犬のように馳せ参じた。
「なんですか? お姉さマッ!?」
ムニスは無言で跳躍し長身のオースの頭を両手で抱え込み、そのままの勢いで口づけをした。なにしてんすか全知さん。
「キキキキキスしてくれました今!? お姉様!?」
「違うわ馬鹿者」
両手を離し、ふわりと着地したムニスは口を手の甲で念入りに拭いながら、
「おぬしが今から倒す相手の居場所と姿形を手っ取り早く伝達しただけじゃ。勘違いするでないわ」
でも顔赤いですよ神剣。
「あ、わっかりました! じゃ、いってきまーす! 御主人様、死なないように頑張ってくださいね! ばびゅーん!」
全く緊張感の無いテンションで戦線を離れていくオースを見送っていると不安しかない。
「あの馬鹿に命賭けたのはちょっと、いや、かなり早まったかもしれん」
「もう遅いわ。己の判断を信じよ」
「そうだよな」
以下、次回! 俺は俺でオースが事を成すまで時間稼がなきゃならん。




