101「女神の掌の上でダンスを強要されるふたり」
「でも、目覚めたせんぱいに人殺し呼ばわりされた時はちょっとだけ嬉しかった。殺してやる、と言われた時、お揃いで人殺しになれますね、って思った」
ソ、ソウデスカ。もう全然分からん。わかりたくもないが。
「それでせんぱいに殺してもらって、ぜんぶ終わったと思った。それなのに!」
「あの女に、あなたが別の世界でのうのうと生き永らえていることを教えられたんです。その時の私の気持ち、わかりますか!?」
ほう。あの女ね。ああ、オマエの気持ちは一ミリもわかりません。
「あの女は、私に約束した。この世界を平和にすれば、なんでも願いを叶えると!」
誰にでも同じこと言ってやがるな、あの自称女神。
「こんな世界どうだっていいけれど、私は元の世界に戻ってせんぱいと添い遂げる。そのためにあなたは邪魔なの。この世界の秩序を乱すあなたを排除します」
「秩序。秩序ね」
人間の、それも大聖宮に属する人間のための秩序だろ、それ。
あと今オマエ、この世界をどうだっていい、って言ったか?
「神託の巫女? そんな風に扱われるのは都合が良かったわ。あなたが来るまでに足元を固めておくにはうってつけの役割だったから」
なら、俺の役割は神託の巫女を殺す大悪人に決定だ。勇者とは一体何だったのか。
「ところで」
ヤツは嗤った。
「どうしてこんな話をしていたか、わかります? こんなにも長く、話す価値などないあなたと話をしていたか」
「……っ!」
時間稼ぎか!
「ゴミムシがにしては早く気付きましたね。でももう遅い。いきますよ」
その宣言の直後。
ヤツの周囲の空間を、あり得ないくらいの数の魔法陣が埋め尽くした。
その数、数十以上!
「なんじゃありゃあ!?」
「叫ぶ暇があったら回避するのじゃタクシ!」
「御主人様! アレ当たったら絶対死にますよ!」
「おおおおおっ!」
あのメンヘラ女、チート能力持ちかよ!!
柱の陰に飛び込むのと無数の魔法が着弾するのがほぼ同じタイミング。
物凄い轟音に耳がキーンてなったが、なんとか第一波をやりすごすことには成功した。
「なんだあの数。どういう反則技使ってんだよ」
俺の悪態にムニスが答えをくれる。
「どうやらあの者の権能は魔力の徴収じゃの。単一の個体から魔力を吸い上げる能力で間違いなかろ」
なるほど他人の魔力を使ってるわけね。
って、ちょい待て。
「一人から吸い上げてるにしては威力と数がおかしくないか?」
「ふむ。巫女長の権能と組み合わせておるのじゃな。巫女長の権能は魔力の集積じゃったからの。巫女長に巫女衆の魔力を集積させて」
「あの女が巫女長の魔力を吸い上げてる?」
「そういうことじゃの」
クソコンボじゃねーか! 今すぐ弱体化しろクソ運営!
「あの者、魔王と遜色無い魔力量を保持しとるような状態じゃの」
「魔王。魔王ね。いいじゃん、ラスボスっぽい」
正直ちっともよくねえんだが。
「つーか、なんなんだそのチートスキルは。俺は文字通り裸一貫でこの世界に放りだされて権能なんてもん持たされてねえぞ!?」
俺が苦情をムニスに訴えるとムニスはいつもの笑いを一層深くした。
「くふふ、主殿は本当に馬鹿じゃの。おぬしにもあるじゃろ」
「え?」
「この我を扱えるという、最上級の権能がの」
「ふはっ」
「くふふ」
「そういやそうだったな。だったら絶対負けねえわ」
今までずっとムニスとやってきたんだ。今も、これからもだ。
以下、次回! 敵を知った。己も知った。ならなんとかなる! はず!!




