100「始まりの場所、通過点、終わらせるべきこと」
そんなこんなで到着した大聖宮の最上階は聖剣の間。
スタート地点がゴールとは全く気が利いている。
もっとも俺のゴールはここではないわけだが。
ここはただの通過点だ。
この世界に転生した時のこの場所は人が――巫女さんがいっぱい詰めていたが今は誰もいない。
ただひとり、俺の倒すべき女以外は。
「よお、メンヘラ女。久しぶり。会いに来てやったぜ」
「……どちら様ですか?」
この女ぁ!
「オマエが殺した男だよ! 真那の恋人の!」
わざとムカつく言い方で返してやった。
短い舌打ちが聞こえ、
「ああ、あなたでしたか」
わざとらしく会釈をしてきやがった。
「ところで……メンヘラ女、って呼び方やめていただけます?」
ヤツの目には憎悪の火が昏く灯っていた。
それは俺を殺した時と何ら変わっていない。
「あいにく俺はお前のこと何も知らんからな。名前も知らないし、知りたくもない」
「あら、そうですか。ですが私はよぉく知ってますよ。渡良瀬卓志。××大学経済学部三回生、単位の取得状況はまず良好。ゼミの教授、先輩とも上手くやっている。サークルには入っていないが交友関係は広い。趣味は料理。性格はお人好しでやや間の抜けたところがある。家族は祖父両親と弟がひとり。この間までは大学に通うため一人暮らしをしていて、住所は――」
「もういいやめろ! 気色悪い!」
やだもうこの女!
「そう、私がせんぱいに出逢ったのは中学一年の春の日だった。中高一貫校の広い校舎で迷っていた私をせんぱいがたすけてくれたの。あの偶然、いえ、運命に私は感謝した――」
え、突然語り始めましたけど、これ最後まで聞いてないといけないヤツ?
ムニスもオースも唖然としている。分かる。
「私はそれからすぐにせんぱいのことを調べたわ。名前、学年、クラス、生年月日、住所、電話番号、部活動、委員会、交友関係。せんぱいのことを知るたび、私の心は満たされていった」
へ、へえ……。こわ。
「私は一年でせんぱいは三年。中高一貫校でなければすぐに別れが来てしまう。そうならなかったのも私とせんぱいが運命で結ばれていたからなの。同じ部活に入って、同じ委員会に入って、同じ時間に登下校をして」
最後の登下校はただのストーカーでは? いや、ここまで全部ストーカー行為なんだが。
「せんぱいと一緒に過ごした時間は何にも代えがたい幸せな時間だった」
“一緒”の概念が乱れる……!
うっとりとした表情で回想するヤツの表情が、突如一変した。
「それなのに!」
菩薩の顔が修羅の顔に。
「大学に進学してあなたのようなゴミムシにまとわりつかれて!!」
わぁお。人を虫扱いするのはやめような?
「優しいせんぱいはダメでクズなゴミムシにも手を差し伸べた。それを愛情と勘違いした愚か者があなたなの。わかりますか? 私の絶望が」
はい。いいえ、わかりません、サー。
「だから排除するしかなかったんです。ゴミムシさえ消えればせんぱいは元通りになると思ったから」
もうツッコミが追い付かない。
「それなのにせんぱいも壊れてしまった! ぜんぶ! ぜんぶあなたのせいで!」
以下次回!




