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10「イマドキの異世界モノなのにチートとかが無い件について」


 大聖宮からだいぶ西に離れた、ゴツゴツした岩山の中腹あたり。


「ま、とりあえずこんなとこかの」


 ムニスが軽い口調で俺に指し示すのは象を倍くらいのサイズにして首を二つにしたバケモノだ。

 この前商隊を救った時の狼っぽい魔獣とはサイズ感からして違う。


 既にこっちの存在は察していて、喉を鳴らして威嚇してきている。


「我は剣に戻るからの。あとはまあ、頑張るのじゃな」

「おっとぉ」


 ムニスが急に中折れ神剣モードになるもんであやうく取り落とすところだった。服はなんかあいつが謎の空間に収納している。都合良すぎて何よりだ。


『あらかじめ言うておくがの。ワイバーンどもを蹴散らした際の如き助勢はせん』


 俺の頭の中に直接ムニスの声が響いた。


「てことは? つまり?」

『自力で倒してみせよ。死線を潜らねば強さなど得られぬからの。身体操作の最適化は完了しておるからの。後は己が限界を自身で超えてみよ』


 オイオイ。限界超えろとか簡単に言うなよ。


「全知的な弱点看破とかそーゆーやつは?」

『あるがの。それをやったらおぬしの修行になるまい?』


 それはそう。


『おぬしが死ぬ寸前になったら我が顕現しアレを斃してやる、とかないからの。窮地に陥った時に弱点を伝えたりもせん』


 ムニスさん、いきなりちょっとスパルタすぎませんかね……。


 それはさておき、ふと気付いたことがある。


「あのさあ、いっこ訊いていいか?」


 俺はひょいと手を挙げて問い掛けてみた。


『なんじゃの? やる前から泣きが入るのかの?』

「違うって。俺が死んだらムニスはどうすんだ?」

『主無き剣など無価値じゃろ。ここらに転がって朽ちるのみよの』

「そっかー……」


 命がけは俺だけじゃないってことね。

 いよいよ負けられねえじゃねえか!


 デカイゾウ(明らかに象じゃないが正式名称とかわからんのでそう呼ぶ)は四つの目で俺を捕捉している。


 俺はへっぴり腰で剣を構えた。

 折れた刀身の先には光の刃が生えている。これはムニスの恩情(サービス)だな。

 手助けしないとか言ってたのに。あのツンデレ神剣め。


 俺はそろそろ近づき、剣の間合いに入るかどうかの位置から一気に飛び込んだ。


「せいっ!」


 横薙ぎに一閃。


 斬っ!


 神剣ムニスの刃はデカイゾウの足を軽々と切り裂いた。

 よし、攻撃は通る!

 ってめっちゃ怒りだした! そりゃそーか。

 うおお! めっちゃこええええ!


 斬られたことへの抗議のつもりかその踏みつけ!

 避けろ避けろ避けろ俺!

 斬撃の勢いのまま駆け抜けるその背後ですごい音がする。

 振り向くとデカイゾウは既に片方の頭で俺を視界に捕捉してやがる。

 試しに逆側に回ってみたら反対側の頭がぐりん、とこちらを向いた。

 死角みたいなもんは真後ろくらいか。でもどうやって回り込む?


 とか呑気に考えてる暇は無かった。

 デカイゾウが頭から突っ込んできた。

 突進か!


「やっべ!」


 俺は攻撃範囲から逃れる為に全力で横に逃げた。

 距離的には結構離れてるし、どうにか躱せる間合いのはず――


「――ってオマエ!」


 デカイゾウは四つの目で俺を追尾、微妙な方向転換をかけてきやがった。


 うおおおい! 死ぬ死ぬ! 走れ俺!

 俺は激突寸前に思いきり跳んだ。


 以下、次回! 死んでなければ続きます!

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