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開戦

 バゲッドは予想通り丘に布陣した。

 対して、俺たちは丘から最も遠い戦場区域ギリギリに布陣する。


「これで後ろから攻められることはない。前だけに集中できる」


「後ろに下がれない。背水とも言いますけどね」

 フレアが余裕のない表情で言う。


 まぁ、無理もないか。


 お互いの初期位置が決定した。

 どちらも布陣に目立った特徴はない。


 俺もバゲッドも前線に土の魔導士部隊を配置している。


 さらにバゲッドは丘の中腹に火の魔導士が布陣した。

 その為、火の魔導士の射程は通常より伸びている。

 遠距離攻撃の打ち合いになれば、射程距離の差で負ける。



「この陣形を専門家に見せたら、十人が十人、私たちの負けって言うんじゃないんですか?」


 フレアは心配そうな声で言う。


「まぁ、そうだろうね」と俺は返す。


「負けませんよね?」


「フレア、この世に絶対勝てる戦いなんてないんだよ」


「そんな……」


「だけど、今回は勝てるかな」


 ミュセルがいたら、もしかしたら負けていたかもしれない。

 しかし、今日、彼女はいない。



『戦闘開始まで残り一分です』



 戦場にアナウンスが鳴り響いた。

 これは試合を管理する運営の魔導士の能力だ。


 さらに運営は俺たちの戦局をリアルタイムで観客たちに映像として届ける。


 この技術が『ギルドリーグ』の人気の理由だ。


「各国が参加した大戦が終わって、早百年、模擬戦闘競技が民衆の一番の娯楽になっている。人を殺すための力がこういう風に変換されて運用されているのは素晴らしいと思わないかい?」


 俺がフレアに同意を求める。

 しかし、彼女の反応は鈍かった。


「歴史や思考の勉強は後にしてください。始まりますよ」


 フレアは緊張した様子で言う。


 その直後に

『戦闘開始5秒前……3……2……1……」

 魔法で拡張された角笛の音が戦場に鳴り響いた。


 

 開戦だ。



 開始直後に動いたのは『ヒーローホークス』だった。


「ホークスの初手は土の魔導士の前進か。少しだけど火の魔導師も前線に出てきているな」


 俺は机の地図に乗せた黒の石を動かす。


「なんで分かるんですか? まだ前線から何の連絡も来てませんよね? それどころか、戦闘だって始まってません」


 フレアが不思議がっていた。

 確かに本陣からだと敵の詳しい動きは分からない。

 しかし……


「言っても信じてもらえないと思ったから、言ってなかったけど、俺には戦場の全てが見えているんだよ」


「はい?」

 フレアはキョトンとした顔をした。


 まぁ、そうだよな。


「俺は雷属性の魔法『索敵』と『通信』しか出来ない。でも、その二つなら誰にも負けないよ」


 本当はもう一つ、使える能力があるけど、それは反則に近い能力だから使うつもりはない。


「あのすいません、ウエンさんの索敵や通信の能力ってどれだけ凄いんですか?」


「凄いかは分からないけど、このぐらいの戦場ならどこにいても索敵できるし、通信も可能だよ。それに俺は通信妨害が効かない」


「えっ? でも、そんな情報、どこにもありませんでしたよ」 


「『ヒーローホークス』の歴代司令官に信じてもらえなかったからね。酷い時は不正を疑われたりもしたから、言わなくなったんだよ。まぁ、そんな話はいいや。とりあえず、ヘテロに連絡を取ろうか…………ヘテロ、聞こえるかい?」


『おわっ!? いきなりなんだ?』


 ヘテロはらしくもない驚きの声を漏らす。


「俺だよ」


『なんだ、通信魔法か……でも私は雷属性を持ってないぜ』


「俺は相手が雷属性を持っていなくても、通信ができるんだよ」


『なんだそれ。便利だな。で、そんな自慢話をする為に連絡してきたわけじゃないだろ?』


「そうだな。まもなく敵の第一陣が攻めてくる。土と火の混成部隊だ。火の魔導士に関しては、本営から水の魔導士を派遣して対策するから、前線の方をどうにかしてほしい。方法は任せるよ。別に倒さなくていい。敵を行動の限界点に追い込めばいいから」


『なんだ、てっきり敵を殲滅しろ! とか言うと思ったぜ。了解だ。敵さんをエスコートしてやるよ』


 俺は通信を切る。


「ウエンさん、敵を倒さなくていいんですか?」


「うちの土の魔導士の戦力じゃ、敵を倒すのに苦労するよ。でも、ヘテロの力量があれば、負けない戦いは出来るさ。ちょっと調べたけど、彼女はあまり型に嵌めない方が良い気がする」


「いい気がするって、そんな思い付きをこんな大舞台で…………って、もう言っても仕方ないですね。それよりも今、ヘテロさんに直接、連絡を取りましたよね? それって他の雷の魔導士を介さずにラグ無しで、各指揮官に情報の伝達を行えるってことですか?」


 おっ、この子は理解が早くて助かるな。


「まぁ、そういうことだね」


 俺がさらっと言うとフレアは驚いた表情になる。


「もしかして、私ってとんでもない化け物を目覚めさせたのでしょうか?」


 フレアは苦笑していた。

 化け物とは酷いな。

 

「さて、敵の第一陣とヘテロたちが交戦状態に入ったぞ」


 俺はその様子を確認する。

 なるほど、面白い陣形を組み立てるな。

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また異世界転生モノ『カードゲーム世界王者の異世界攻略物語』も投稿していますので、宜しければ、それらもよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] 力押しって・・・無能の象徴じゃん。 絶対に勝てる試合はない。勝つか負けるかは、兵達の数より、指揮官の采配次第。 机上の空論さんには、力押ししか出来ない人物のみが揃っているのかな? 高台…
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