試合開始直前
最弱ギルドと最強ギルドの対戦、本来なら注目が集まる戦いではない。
しかし、この日の観客は超満員だった。
たった一日で全ポイント賭け、ダブルアップ戦のことが話題になった。
さらに俺が元『ヒーローホークス』だという情報もすでに知れ渡っている。
ギルドリーグの愛好者はこれを復讐戦と呼んだ。
試合開始直前、俺とバゲッドは挨拶の為に対面する。
「ウエン君、気の毒に思うよ。こんな大衆の目前で完膚なきまでに負けるのだからね」
バゲッドは意地の悪い笑みを浮かべる。
「お互いに悔いのないように戦いましょう」
俺は明るい声で言う。
俺の態度が気に入らなかったようでバゲッドは不機嫌になった。
「精々、立派な負け方をして、来年以降も資金を集められるようにしておくんだな」
「それでは両軍配置についてください。なお、今回はダブルアップ戦なので『ヒーローホークス』が先に布陣します。その後に『ブレイブファイターズ』が布陣を開始してください」
審判団の説明も終わり、俺たちはいったん仮拠点に戻った。
「さて、本番だな。敵の布陣をよく見ておくといい」
バゲッドが指定してきた戦場はアスタロト平原だ。
ここは森や沼地などがない。
地形の特徴が皆無だ。
「ウエンさんの言った通り十二か所の戦場からバゲッドは本当にここを選びましたね」
フレアは驚いていた。
「でも何でここだと確信していたんだ?」
オルフィンが尋ねてきた。
昨日より少しだけ態度が柔らかくなった気がした。
「予想するのは難しいことじゃない。バゲッドは不確定要素を嫌う。不確定要素の少ない平原を選ぶのは当然さ」
「だとしても、なんでアスタロト平原だと確信が持てたんだ?」
今度はヘテロが聞いてきた。
「それはこれがダブルアップ戦だからだよ。初期布陣を自由の選べるとしたら、平原の中でも地形的有利が分かりやすい場所を選ぶ。だとしたら、アスタロト平原しかありえない」
このアスタロト平原の唯一の特徴は中央の丘だ。ここを押さえた方が圧倒的の有利になる。
『机上論者』が好きな戦場なわけだ。
「だが、戦場と布陣場所が分かったところで問題は残る。過去三年間で丘の取り合いで負けたギルドがその後の展開で勝ったことはない」
オルフィンが指摘した。
「それはお互いに丘を取りに行った結果だ。今日はそんな展開にならない。ヘテロ、初動は期待しているよ」
「もし私が初動でやらかしたら、どうするかな?」
ヘテロは意地の悪い、それでいて愛嬌のある笑いを浮かべた。
「それは困るね」
「そりゃ困るだろ。でも、その後のことも考えているんだろ?」
「いいや、君なら大丈夫だと思っている」
大胆不敵に笑っていたヘテロの表情がわずかに崩れた。
「ウエン、君は不思議な男だ。昨日、私たちに説教をしたと思えば、今は信頼するという。強引な方法で負けても仕方ないと思っていた私たちに絶対勝つことを思い出させた。私個人としてはこの一戦で君との時間を終わらせたくないな。微力を尽くそう」
「ありがとう。各員。奮戦に期待する。これは伝説の始まりだ。一か月後、リーグ戦が終わった時、『ブレイブファイターズ』は奇跡のギルドと称賛されている」
実際、必勝なんてありえないが、今はこのギルドを鼓舞するところが重要だ。
「明日の笑いもの可能性もあるがな。もうここまで来たら、退けない。やってやるさ」
オルフィンも腹を括ってくれた。
「あ、あの私の、火の魔導士部隊だけはまだ具体的は作戦行動を聞いていません」
ヒューちゃんが申し訳なさそうに言う。
「心配しなくてもいい。君は俺の言う通り動けば、最高の働きが出来るよ」
「でも私、規定試合を戦っている火の魔導士の中で一番、スコアが低いです」
ギルドリーグには個人成績がいくつか存在する。
その一つがダメージスコアだ。
文字通り累計総ダメージの多さを示している。
ヒューちゃんは既定の試合数をこなしている火の魔導士の中で最下位の成績だった。
「自信を持っていい。俺は君の力を高く評価しているからね」
頭を撫でるとヒューちゃんは少し嬉しそうだった。
二十歳とは聞いているが、こう見るともっと幼く見える。
「それではみんな、頑張りましょう!」
フレアの言葉で試合前、最後の軍議は締め括られた。
さて、これは俺にとってのある意味初陣だな。
俺の考える作戦を容赦なく使える。
そう考えると楽しみで仕方ない。
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