大博打
ギルドリーグの戦いは二日間で行われる。
と言っても二日連続で戦うわけではない。
一日目にお互いの賭けるポイントの提示と戦場の発表が行われる。
そして、両軍はその戦場にあった布陣と戦力を考えて、二日目に戦闘を行う。
戦場は山岳地帯や平地など様々で司令官はその都度、最適なギルドメンバーを選出する必要がある。
その為、ギルドに所属しているギルドメンバーが多いほど、多種多様な地形に柔軟な対応ができる。
その点でも『ブレイブファイターズ』は不利だ。
ギルドメンバーが少ない為、対応力は低い。
「これはこれはウエン君、新しい就職先が決まってよかったね。いつまで続くか分からない弱小貧乏ギルドなんて、君にお似合いだ」
「あはは、バゲッドさんは相変わらずですね。あれ? ミュセルがいないみたいですけど? それに各隊長も変わってますね」
「全員反抗的だったので、少し謹慎を言い渡したのだよ。まったく若者は戦いの本質を理解していない。名将とは当たり前に勝つものなのだよ」
この人は相変わらず、上からモノを言うなぁ。
でも、そうか、ミュセルや他の隊長たちもいないのか。
「なんだね。いきなり笑い出して?」
おっとバゲッドがお怒りだ。
「いえいえ、少しは楽しめるかと思ったのですけど残念です」
「んっ? ああ、あの若者たちがいれば、隙があったかもという話か? それは残念だったね。今、『ヒーローホークス』にいるのは私に忠実なメンバーばかりだよ」
それは本当につまらないな。
「で、どうする? と言っても、君たちの選択は決まっているか、どうせ最低掛け金の100ポイントだろ?
そんな小銭の為にやる気にもなれんな。わざと負けて話題作りの手伝いをしてやろうか? 『ヒーローホークス』まさかの敗戦! 各報道は大騒ぎするだろうな」
そんな気もないくせによく言うなぁ。
――さてと…………
「下位ギルドの『ブレイブファイターズ』、賭けるポイントを提示してください」
ポイントの提示は下位の方のギルドからするのが決まりである。
そして、上位のギルドはその賭けるポイントに問わず、応じなければならない。
これは下位のチームを守る決まりだ。
ポイントを多く持っている上位チームがポイントによる圧力で勝たない為である。
最低限、賭けなければならないポイントは100ポイント。
で、俺が提示したポイントは…………
「1600ポイントだ」
その言葉に俺とそれを知っていたフレア以外の全員が驚愕した。
1600ポイントは『ブレイブファイターズ』が持っている全ポイントである。
「ほ、本気ですか!?」
審判員が慌てて確認する。
ポイントの全損はリーグ戦脱落を意味する。
資金難が続く『ブレイブファイターズ』にとって、それはギルド消滅に等しかった。
「えっ、ああ、そうか、間違いです」と俺は付け加える。
「おい、一度提示したポイントは撤回できない。そうだろ?」
バゲッドさんが審判団を睨んだ。
審判団は頷いた。
「ウエン、勝負で間違えましたは通用しないんだよ!」
バゲッドは意地の悪い笑みを浮かべた。
「別に賭けたポイントは戻すつもりはありませんよ」
「なんだと?」
俺は一枚のカードをテーブルに置いた。
そのカードにまた全員が驚愕する。
フレアは胃と口を押えて、吐きそうになっていた。
「俺たち『ブレイブファイターズ』はこの試合でダブルアップを宣言します」
「なんだと? 私の聞き間違いか?」
バゲッドは怒りで顔を真っ赤にしていた。
「聞こえませんでしたか? ダブルアップです」
ダブルアップは勝った場合の獲得ポイントを倍にする。
しかし、良いことばかりではない。
「ウエン君はダブルアップの代償を知らないようだね」
「分かってますよ。ダブルアップを宣言したギルドは、相手のギルドの指定した戦場で戦わなければならない。さらに相手チームは好きな場所から戦闘を行える。ですよね?」
「それが分かっていて、ダブルアップを宣言したのか!?」
バゲッドはついにキレた。
「はい、そうですよ。バゲッドさん、好きな戦場と初期布陣を決めてください。あっ、もしかして、この有利条件から負けるのが怖いですか? 今の『ヒーローホークス』の成績に加えて、もしこんな弱小ギルドに負けたら、もうた退任するしかなくなりますもんね?」
「…………いい度胸だ。捻り潰してやる」
バゲッドはそう言うとギルドメンバーと一緒に打ち合わせ会場から出て行った。
これは中々の快感だ。
『ヒーローホークス』にいた頃は一応、バゲッドには気を使っていた。
しかし、ずっとこうやって正面から馬鹿にしてみたかった。
「さてと……」
俺の一番にやるべきことは明日の陣立てではないだろう。
睨みつけてくる『ブレイブファイターズ』のメンバーを説得しないといけない。
特にオルフィンは今にも殴りかかってきそうだ。
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