当たり前の選択
「何を勝手なことを言っているんですか!?」
フレアが声を張った。
「勝手は十分に承知している。もちろん、相応の礼はするつもりだ」
ミュセルは小切手を提示した。
「ウエンを引き抜いた場合『ブレイブファイターズ』にこれだけの金額を補償として、支払う」
四人は小切手を確認した。
「えっと、0が一、二、三、四、五…………」
金額を確認して、四人は驚きの表情を見せた。
「それだけあれば、『ブレイブファイターズ』は再建できる。ウエンを雇った理由は『ブレイブファイターズ』の存続の為だろ? なら、その小切手を受け取れば、目的は達成できるはずだ」
「そうかもしれないけど、これだけの大金、司令官になったとはいえ、君一人の権限では動かせないだろ?」
俺の問いに対して、ミュセルはシークの方へ視線を向けた。
「それは『ヒーローホークス』じゃなくて、私のお父様が出したお金よ」
なるほど、そういうことか。
シークのお父さんが経営している会社は数年前に、雷の魔導士の力を応用した新しい通信魔具を開発した。そのおかげで業績が飛躍的に伸びている。
「今回の不祥事でいくつかのスポンサーが降りることになったわ。今の戦力じゃ、優勝は出来ないと見限られたのよね。そこで前からギルドリーグに参加したかったお父様がホークスを支援することにしたのよ。来年にはお父様の会社が『ヒーローホークス』の主導権を取ると思う。こうすれば、今回のバゲッドみたいな成り代わりはさせないわ。ギルドの体制も良い方向に変わる」
なるほど、それなら資金面は潤沢になるだろう。
最強ギルドと言われている『ヒーローホークス』だが、資金は多くなかった。
「『ヒーローホークス』は強くなる。してみせる。だから、ウエンも来てくれないか? 給料だって、今のよりも出す。私と一緒に史上最強のギルドを作ってくれないか?」
ミュセルは手を差し伸べた。
フレアたちを見ると不安そうな表情をしていた。
「ありがとう、ミュセル、君に誘われるなんて、嬉しいよ」
一瞬、ミュセルの表情が緩みかけた。
「けど、断る」
「…………そうか、そんな気がした」
ミュセルは素っ気なく答えたが、明らかに落胆していた。
「お金じゃないんだ。俺はフレアたちに新しい場所を貰えた。たとえ、今の十倍の給料を提示されても、君からの誘いは断るよ。それに俺はね、ミュセル、君が司令官として采配をする『ヒーローホークス』と戦ってみたいんだ。君の戦場での判断は神懸かり的だ。俺には出来ないことをする。君と一緒に戦ったことは俺のかけがえのない財産だけど、反面、君と全力で戦ってみたいとも思っていたんだよ」
俺の言葉にミュセルは笑った。
「それは私もだ。君と共に戦うのは楽しいだろう。でも、君と戦うのは心が躍りそうだ。分かったよ。もう誘わない。無粋なことを言ってすまなかった」
「気にすることじゃないよ。あっ、でも、フレアたちはどうかな? お金が手に入るなら、俺に出て行けって言うなら、従うよ。これから五戦、無茶な戦いをするよりもその小切手を受け取った方が良いかもしれないからね」
「ウエンさん、そんなの決まっています」
フレアは笑顔で言う。
そして、ヘテロ、オルフィン、ヒューちゃんに確認し、頷くと小切手をギリギリに破いた。
「これが私たちの答えです。ウエンさん、逃がしませんよ。これから一緒に優勝してもらいます。全部の戦いが終わった時にウエンさんが私たちを、『ブレイブファイターズ』を選んで良かった、と言ってもらえるように私たちは頑張りますから!」
「ありがとう。俺も君たちに、俺がいて良かった、と言ってもらえるように頑張るよ。…………ミュセル、だから今度は…………」
「そうだな。ウエン、君と戦うことを楽しみにしている。…………それとは別に今日のこの後、二人で食事に行かないか? ウエンの司令官就任と初勝利を祝いたい。それに私の司令官就任を君に祝って欲しいい」
ミュセルは少し緊張した様子で俺を食事に誘う。
「別に構わないよ」
俺が答えるとミュセルは笑顔になった。
「そ、そうか、ならさっそく…………」
「待ってください」とフレアが俺の腕をグイッと引っ張った。
「試合期間中に他ギルドの司令官同士が密会しているなんて、記者にバレたら、話題にされます。それじゃなくてもミュセルさんはウエンさんと噂になっていましたよね? あらぬ誤解、というものはあるかもしれません」
ミュセルの頬はピクリと動いた。
「あらぬ誤解とはどういうことかな? 別に試合期間に他ギルドの司令官と会ってならないなどと言う決まりはない。そうだろ?」
ミュセルはイラム審判員に視線を送り、確認する。
「その通りだ」とイラム審判員を答えた。
「と、とにかく駄目です! ウエンさんは私たちの司令官なのですから!」
「フレア選手、君は個人的な感情で物事を言っていないか?」
「あ、あなたはどうなんですか?」
なぜか二人が喧嘩を始めた。
俺が「みんなで行けば良いだろう」と提案すると二人は渋々だが、「それなら」と納得してくれたようだった。
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