伝説
ヒューちゃんの攻撃は間違いなく、ホークスの本陣を直撃した。
それなのに損害がない。
どういうことだ?
ホークスの本陣の水の魔導士の数の間違えたか?
いや、そんなはずはない。
バゲッドは一体、どんな奥の手を隠していたんだ?
「ウエンさん!」
フレアが叫んだ。
直後に多数の『火炎弾』が本陣に直撃する。
それはフレアたちが防衛するが、攻撃は止まない。
おかしい…………
とてもじゃないが、本陣に残っていた火の魔導士だけで行える攻撃の規模ではない。
これはもしかして…………
『ヘテロ、前線はどうなっている?』
『やぁ、司令官、絶賛交戦中だよ。…………ただ、様子がおかしい。敵が全く消耗していない』
『……そうか。分かった。もう少しだけ粘ってくれ』
なるほどな。
これはまともな状況じゃない。
ドーピングだろう。
「ウエンさん?」
フレアは心配そうだった。
「ごめん、フレア、俺の計算が間違っていた。バゲッドがこんなに愚かだとは思わなかったよ」
「どういうことですか?」
「この攻撃はおかしい。ホークスの残存戦力で行える攻撃の規模を越えている」
フレアは俺の言いたいことを理解し、
「もしかして、不正ですか? もし、そうなら早く運営に連絡しましょう」
「いや、連絡はしない。このまま戦う」
「えっ?」とフレアは声を漏らして、困惑の表情になった。
「あっ、心配しないで大丈夫。試合には勝つから。だけど、とてもつまらない終わり方になる。君たちがここまで頑張って、とても面白くて、良い試合にしてくれたのに俺とバゲッドが台無しする。そのことは本当に心の底から謝るよ。それでも俺は試合を穢したバゲッドを許せない。あいつにはそれ相応の報いを受けてもらう」
俺は多分、怖い顔をしていたと思う。
反則負けじゃ、生温い。
バゲッドにはもっと恥をかいてもらう。
フレアは大きく息を吐いた。
そして、無言で俺の手を取った。
「ウエンさんが何をしようとしているかは分かりません。でも、ウエンさんの指揮で戦えた今回の戦いは最高の試合です。それは変わりません」
フレアは俺を真っ直ぐに見て、宣言した。
「ありがとう。さて…………」
俺は通信を繋いだ。
相手はヒューちゃんでも、ヘテロでも、オルフィンでもない。
『聞こえるか?』
『貴様、ウエンか!?』
その相手はバゲッドだ。
『ふん、雷属性しか扱えないなりに器用なことが出来るものだな。なんだ、我々の大攻勢を見て、投了をしたくなったか?』
バゲッドは笑っていた。
怒りはある。
けど、その一方で憐れだとも思ってしまった。
『あんたには少しだけ申し訳ないと思っている』
『なんだ、その偉そうな謝り方は! それに今更謝ったところで…………』
『こんな卑劣で、愚かで、馬鹿な方法、ドーピングに走らせるまで追い込んだことは少しだけ反省するし、同情する。だけど、もう容赦はしない』
『ド、ドーピングだと? 負けそうになったからって、とんでもない言いがかりをするな! ここまで私はわざと負けそうなふりをしていたのだよ。全て作戦通りだ! 観客も楽しめただろう。弱小のファイターズが最強のホークスをここまで追い込んだ。しかし、自力で勝るホークにはあと一歩、及ばず! ギルドポイントを全て失ったファイターズは消滅、中々に奇麗な終焉じゃないか。君たち落ちこぼれにしてはな!』
バゲッドはずっと興奮している。
声を聞く限り、魔力だけでなく、精神にも変化があるクスリのようだ。
『…………別に俺は少しぐらい馬鹿にされたぐらいじゃ、怒らない。役立たずとか、無能とか、言われた挙句、戦力外にされた程度じゃ、あんたを怒ることはしない。だけど、このギルドリーグを穢した。魔法大戦期、魔法は何でもありの殺戮手段だった。先人たちはそれを競技として成立させ、決まりを作り、秩序を形成した。俺たち魔導士が決まりを守っている。だから、殺戮の道具だった魔法を民衆は娯楽として、受け入れてくれたんだ。あんたのやったことは先人たちが作ったギルドリーグを馬鹿にした行為だ』
『ウエン君、試合は口で戦うものではなく、魔法と戦術で戦うものだよ。負け惜しみはそれぐらいにしておいたら、どうだ?』
『負け惜しみじゃない。この試合は俺たちの勝ちだ』
『勝ちだと? 現実を見たらどうだ! 前線はもう突破されるぞ! 砲撃に対する防衛だって、長くは持たないだろ! ウエン・ヤング、お前の負けだ!』
『…………俺があんたに話しかけているってことは正確な位置がバレているってことだ』
『だから何だ!? 正確な位置が分かっていても、風の魔導士の突撃も、火の魔導士の砲撃もここまで届かない!』
『あんたには、いや、誰にも言っていないことが俺にはある。雷の魔導士の極地を見せてやる』
雷の魔導士の特性は伝達と制御だ。
その能力を使って、探索と連絡を行っている。
攻撃手段も、防御手段もない最後衛。
最優秀選手に選ばれることのない影の存在。
しかし、ギルドリーグの歴史の中で二人だけ最優秀選手に選ばれた人物がいる。
その二人が共通して使った特技。
ギルドリーグの歴史上二人しか扱えない奥義。
『こんな技で勝つのは面白くない。でも、あんたのやったことはもっと面白くなかったよ』
戦場の上空に光が集まっていく。
奥義の名前は〝集束砲〟という。
試合の終盤、戦場に散らばった魔力の粒子の再利用。
天から地上に突き刺さる巨大な魔力の塊だ。
『発動、打ち貫け〝収束砲・雷柱〟』
『集束砲だと!? そんな伝説の技が…………』
バゲッドの声はそこで途絶えた。
ホークスの本陣に巨大な光の柱が突き刺さる。
その光が消えると同時に俺はその場に倒れ込んだ。
「ウエンさん!」
フレアが駆け寄る。
「心配ない。ただの反動だよ」
「反動?」
「まあね。試合でやったのは初めてだけど、実戦でやるのはキツイね。散らばった魔力が多すぎるよ。あれだけ言い切って、発動しなかったら、どうしようと思ったよ」
「あれって、まさか、集束砲ですよね? 初めて見ました」
「知っているのかい? これを最後に使った選手は三十年くらい前の人だよ?」
「知っています。だって…………」
フレアの声が随分と遠くに聞こえる。
それに通信も、探索も出来ない。
当分は回復しないだろうな。
その必要はないけどね。
「ごめん、フレア、試合の最後がこんな終わり方で」
試合終了を知らせる角笛が鳴り響いた。
「とんでもないです。ウエンさん、あなたは最後まで私を、いえ、私たちを驚かせてくれました。本当にあり…………」
俺はフレアの言葉を途中で遮る。
「やめてくれ。俺たちは仲間だ。それにたかが一回勝っただけだよ。俺たちの目標は…………」
「優勝ですよね」と今度はフレアに途中で遮られてしまった。
「ウエンさんが来るまで優勝なんて考えられませんでした。でも、今は出来そうな気がします」
「良いね。まずは自分が出来るって信じないと。…………さて、今日の試合の勝利者インタビューの前にやることがあるな」
俺は戦闘を終えた敵味方の中を進んでいく。
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