表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/29

禁じ手

今回はバゲッドの視点になっております。

ご了承ください。

『ヒーローホークス』の火の魔導士部隊が壊滅する少し前。


「ファイターズは丘の下まで進撃してきました。全軍で向かってきます。司令官のウエンさんの姿も確認できます」


 兵士の報告を聞いた私は笑った。


「馬鹿め、調子に乗って攻めて来たのだな。土の魔導士を前線に展開しろ。火の魔導士部隊の集中砲火を食らわせてやれ。それから風の魔導士部隊を早く再編しろ。それでウエンの後背をついてやれ!」

 

 私は完璧な作戦を机の上の地図で説明した。

 これで完全な包囲殲滅が出来る。


「………………」


 なんだ、こいつらは?

 なぜ、何も言わない!?


 それになんだその眼は?


 憐れむような視線。

 恐れるような視線。

 呆れるような視線。


「おい、早く私の言った命令を実行しろ!」


 参謀たちはお互いに目を合わせ、やがて参謀長が口を開いた。


「司令官…………大変、言いにくいのですが…………」


「なんだ、今は一刻を争うんだぞ!? 早く風の魔導士部隊に連絡して…………」


「もうすでに風の魔導士部隊は存在しません。突撃した風の魔導士部隊は全て戦闘不能になりました。それと土の魔導士部隊の損害も酷く補給を行えなかったので、半壊状態です。前線を維持するのに十分な戦力とはいえません。火の魔導士部隊は健在ですが、ウエン・ヤングが何も手を打たずに進軍しているわけがありません。間違いなく、水の魔導士、遠距離攻撃対策をしているでしょう。もう勝つ手段はありません」


「勝つ手段がないだと? それは負けると言いたいのか?」


 酷く声が震える。

 なぜだ?

 負けるはずはない。

 私があんなギルドに負けるはずはないんだ!


「私の命令が聞けないのか? いいから早く…………」


 私が再度命令を出そうとした時、本陣にホークスのメンバーが走って入ってきた。


「報告します! 火の魔導士部隊が壊滅しました」


「……………………」 


「司令官、勝負は決まりました。もう投了を宣言してください」


 投了だと…………?


「まだ負けていないのに投了だと? ふざけたことを言うな!」


 訳の分からないことを言った参謀長に指揮棒を投げつけた。


「…………補給線は断たれ、機動部隊も壊滅。そして、今は砲撃部隊も壊滅しました。半壊した土の魔導士部隊は孤立しているでしょう。本陣の戦力では勝つことは出来ません。丘を捨てて逃げれば、時間いっぱい粘ることは出来るかもしれませんが、それをやったところでただの遅延行為です。潔く、負けを認めるしかないでしょう」


「参謀長、貴様はクビだ」


「………………!?」


 私がクビを宣告すると参謀長は睨みつけて来た。


「なんだ、その眼は? 無能はクビ、当然だろ!」


 周りを見渡す。

 他の奴らもみんな、私を睨みつけていた。


「なんだ、貴様ら? なぜ、そんな眼で私を見る!」


「司令官があまりに理不尽なことを言うからです!」


 一人の男が怒鳴った。

 こいつは誰だ?

 名前が出てこない。


「皆、司令官の指示通りに戦いました。それなのに我々に敗戦の責任を問い、あなたは何もしようとしない! もうこんなのはたくさんだ! あんたが来たばかりの頃は、独断専行の多い前衛チームや周りが特別視していたウエン・ヤングが落ちていくの見て、気分が晴れた。けど、こんな恥を晒すくらいなら、天才たちの影でひっそりとしていた方が良かった! あんたがタダの凡将なら、ウエンやミュセルたちがどうにかしたのに、あんたはうちのギルドから主力を引き抜いた。優秀な中級指揮官がいなくなったのにどうやって、勝てるというんだ。この愚将!」


 私は何を言い返そうとしたが、咄嗟に声が出なかった。

 腰から砕けて、椅子に倒れ込む。


 酷く息がしづらい。

 息を整えるのにかなりの時間がかかった。

 

「……分かった。普通にやったら、もう勝てない…………」


 だが、負けるわけにはいかない。

 私が二度もウエンに負けるなどあってはならない!

 その為にはどんな手段も使う。


 幸い、戦場は映像として流れているが、各本陣は情報が漏洩しない為に中継がない。

 ここでなら何をしてもバレない。


 私は持って来ていたバッグから薬を取り出した。


「全員、これを飲め」


 私が机の上に薬を放り投げると全員が顔色を変えた。


「司令官、それは?」


「勝つために必要な薬だ。一回の使用なら副作用はほとんどない。試合前に検査は行われるが、試合後には薬物検査は行われない。他のメンバーにも水に混ぜたりして、飲ませろ! そうすれば、半日は魔力を補給しないでも戦える」


「そんなことをすれば、終わりです!」


「負けても終わりだ! 弱小のファイターズに負けたとなれば、最強のホークスの名前は地に落ちる! お前たちは、ミュセルやシーク…………それにウエンがいなくなったから負けたと言われるんだぞ! 奴らに頭を下げて、肩身の狭い思いをするか!? ここでウエンは叩き潰せば、奴は評価されない。プロリーグから消える。今回はうまくいかなかったが、次はうまくやる。今日のダブルアップ戦に勝てば、二位の『レオン&ウィッチーズ』を引き離せるんだ! お前たちは私に付いてきた時点でもうミュセルやシークの所には帰れないんだよ!」


 少しの沈黙後、一人が薬に手を伸ばす。

 すると全員が次々に薬を手に取った。


 そうだ、それでいい!

 

 ウエン、奴は許さん!

 私自身の手で叩き潰してやる!!


 私は残っている薬を口に含んだ。


 その瞬間、年のせいで衰えていた魔力が戻っていくのを感じる。


「凄い。凄いぞ! これなら負ける気がしない」


 周りを見ると先ほどまで、暗い顔をしていた連中が笑っていた。


 完全な興奮状態だ。


 さて、ウエン、私は怒らせた報いをくれてやる!


読んで頂き、ありがとうございます。

もし宜しければ、下にある☆☆☆☆☆から、作品への率直な評価とブックマークをお願い致します!

執筆の励みになります。


また異世界転生モノ『カードゲーム世界王者の異世界攻略物語』も投稿していますので、宜しければ、それらもよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ・・・、うわぁ馬鹿だ。 どちらにしろバレるに決まってるじゃん。 駄々を捏ねている子供みたい。 というか、こんな事がバレたら、ギルドの評判すらも下がって、「クスリを使って勝っていたチーム…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ