禁じ手
今回はバゲッドの視点になっております。
ご了承ください。
『ヒーローホークス』の火の魔導士部隊が壊滅する少し前。
「ファイターズは丘の下まで進撃してきました。全軍で向かってきます。司令官のウエンさんの姿も確認できます」
兵士の報告を聞いた私は笑った。
「馬鹿め、調子に乗って攻めて来たのだな。土の魔導士を前線に展開しろ。火の魔導士部隊の集中砲火を食らわせてやれ。それから風の魔導士部隊を早く再編しろ。それでウエンの後背をついてやれ!」
私は完璧な作戦を机の上の地図で説明した。
これで完全な包囲殲滅が出来る。
「………………」
なんだ、こいつらは?
なぜ、何も言わない!?
それになんだその眼は?
憐れむような視線。
恐れるような視線。
呆れるような視線。
「おい、早く私の言った命令を実行しろ!」
参謀たちはお互いに目を合わせ、やがて参謀長が口を開いた。
「司令官…………大変、言いにくいのですが…………」
「なんだ、今は一刻を争うんだぞ!? 早く風の魔導士部隊に連絡して…………」
「もうすでに風の魔導士部隊は存在しません。突撃した風の魔導士部隊は全て戦闘不能になりました。それと土の魔導士部隊の損害も酷く補給を行えなかったので、半壊状態です。前線を維持するのに十分な戦力とはいえません。火の魔導士部隊は健在ですが、ウエン・ヤングが何も手を打たずに進軍しているわけがありません。間違いなく、水の魔導士、遠距離攻撃対策をしているでしょう。もう勝つ手段はありません」
「勝つ手段がないだと? それは負けると言いたいのか?」
酷く声が震える。
なぜだ?
負けるはずはない。
私があんなギルドに負けるはずはないんだ!
「私の命令が聞けないのか? いいから早く…………」
私が再度命令を出そうとした時、本陣にホークスのメンバーが走って入ってきた。
「報告します! 火の魔導士部隊が壊滅しました」
「……………………」
「司令官、勝負は決まりました。もう投了を宣言してください」
投了だと…………?
「まだ負けていないのに投了だと? ふざけたことを言うな!」
訳の分からないことを言った参謀長に指揮棒を投げつけた。
「…………補給線は断たれ、機動部隊も壊滅。そして、今は砲撃部隊も壊滅しました。半壊した土の魔導士部隊は孤立しているでしょう。本陣の戦力では勝つことは出来ません。丘を捨てて逃げれば、時間いっぱい粘ることは出来るかもしれませんが、それをやったところでただの遅延行為です。潔く、負けを認めるしかないでしょう」
「参謀長、貴様はクビだ」
「………………!?」
私がクビを宣告すると参謀長は睨みつけて来た。
「なんだ、その眼は? 無能はクビ、当然だろ!」
周りを見渡す。
他の奴らもみんな、私を睨みつけていた。
「なんだ、貴様ら? なぜ、そんな眼で私を見る!」
「司令官があまりに理不尽なことを言うからです!」
一人の男が怒鳴った。
こいつは誰だ?
名前が出てこない。
「皆、司令官の指示通りに戦いました。それなのに我々に敗戦の責任を問い、あなたは何もしようとしない! もうこんなのはたくさんだ! あんたが来たばかりの頃は、独断専行の多い前衛チームや周りが特別視していたウエン・ヤングが落ちていくの見て、気分が晴れた。けど、こんな恥を晒すくらいなら、天才たちの影でひっそりとしていた方が良かった! あんたがタダの凡将なら、ウエンやミュセルたちがどうにかしたのに、あんたはうちのギルドから主力を引き抜いた。優秀な中級指揮官がいなくなったのにどうやって、勝てるというんだ。この愚将!」
私は何を言い返そうとしたが、咄嗟に声が出なかった。
腰から砕けて、椅子に倒れ込む。
酷く息がしづらい。
息を整えるのにかなりの時間がかかった。
「……分かった。普通にやったら、もう勝てない…………」
だが、負けるわけにはいかない。
私が二度もウエンに負けるなどあってはならない!
その為にはどんな手段も使う。
幸い、戦場は映像として流れているが、各本陣は情報が漏洩しない為に中継がない。
ここでなら何をしてもバレない。
私は持って来ていたバッグから薬を取り出した。
「全員、これを飲め」
私が机の上に薬を放り投げると全員が顔色を変えた。
「司令官、それは?」
「勝つために必要な薬だ。一回の使用なら副作用はほとんどない。試合前に検査は行われるが、試合後には薬物検査は行われない。他のメンバーにも水に混ぜたりして、飲ませろ! そうすれば、半日は魔力を補給しないでも戦える」
「そんなことをすれば、終わりです!」
「負けても終わりだ! 弱小のファイターズに負けたとなれば、最強のホークスの名前は地に落ちる! お前たちは、ミュセルやシーク…………それにウエンがいなくなったから負けたと言われるんだぞ! 奴らに頭を下げて、肩身の狭い思いをするか!? ここでウエンは叩き潰せば、奴は評価されない。プロリーグから消える。今回はうまくいかなかったが、次はうまくやる。今日のダブルアップ戦に勝てば、二位の『レオン&ウィッチーズ』を引き離せるんだ! お前たちは私に付いてきた時点でもうミュセルやシークの所には帰れないんだよ!」
少しの沈黙後、一人が薬に手を伸ばす。
すると全員が次々に薬を手に取った。
そうだ、それでいい!
ウエン、奴は許さん!
私自身の手で叩き潰してやる!!
私は残っている薬を口に含んだ。
その瞬間、年のせいで衰えていた魔力が戻っていくのを感じる。
「凄い。凄いぞ! これなら負ける気がしない」
周りを見ると先ほどまで、暗い顔をしていた連中が笑っていた。
完全な興奮状態だ。
さて、ウエン、私は怒らせた報いをくれてやる!
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