ヒューちゃんが苦手だったこと
ホークスの風の魔導士がファイターズの前線を突破する少し前。
「風の魔導士の突撃は脅威だ。特にホークスの風の魔導士は速度に特化している。止めるのは難しい。けど、受け流すことは出来る。小規模方陣群を形成すれば、ホークスの風の魔導士は戦闘を避けて躱す」
「でも、それだと敵は消耗することなく、本陣に迫りますよね?」
フレアが尋ねてくる。
「そうだね。でも、必死に守ろうとしてもホークスの風の魔導士の突撃は止められないよ。無駄な損害は出したくない。それに敵には大きな問題がある。小規模方陣群を抜けるためには突撃陣形を維持できない」
俺は本陣手前にオルフィンたち風の魔導士を布陣させていた。
「さて、フレア、もし、陣形が乱れている時に敵が視認できる距離にいたら、どうする?」
「バラバラの突撃では各個撃破されますから、陣形を再編試します」
「正解だ。で、これからフレアたちが誤解していることを修正するよ」
フレアは「誤解ですか?」と首を傾げた。
「ヒューちゃん、あの子は遠距離攻撃の精度が悪すぎると思っているけど、実はちょっと違う」
「どういうことですか? 仲間のことを悪くいうのは避けたいですけど、ヒューちゃんの遠距離攻撃は本当に当たらないですよ」
「だとしたら、プロ試験の時の遠距離攻撃精度A判定がおかしいことになる」
「それは試験の時は止まった的を狙いますから」
確かにその通りだ。
俺もヒューちゃんの戦績を見た時、なんでプロ試験に受かったか疑問だった。
だから、昔の資料を確認し、ヒューちゃんが苦手なことに気付けた。
「ヒューちゃんが苦手なのは遠距離攻撃じゃない。動いている的を狙うことが苦手なんだよ。多分、ヒューちゃんの性格なんだろうね。戦場の変化についていけない。応用が全くできない。だから、最初は考えなくても敵に当たるほど密集した至近距離でヒューちゃんに攻撃をしてもらった。でも、もう一つ、ヒューちゃんに出来ることがある。敵じゃなくて目標地点を指定しておいて、合図と共に力の限り『火炎弾』を撃ち込む。これなら、敵の動きに惑わされない」
「まさか、敵の風の魔導士が陣形を組み直す場所を予想していたんですか?」
「別に難しいことじゃない。その為にオルフィンたちにも前線に出てもらった。オルフィンを見れば、ホークスは一旦、足を止めるからね」
俺はヒューちゃんと連絡を取った。
『聞こえるかい?』
『は、はい、聞こえます! やっちゃっていいんですか? 良いんですよね!?』
ヒューちゃんは待ち切れないようだった。
『ああ、後のことは考えなくていい。俺が指定した場所に魔力の尽きるまで『火炎弾』を撃ってくれ』
『もちろんです!』と元気の良い声が聞こえて来た。
直後、とんでもない爆発音が聞こえた。
「直撃だね」
半壊した敵の風の魔導士に対して、正面からはオルフィンが突撃を敢行する。
戦える状態でないホークスは撤退しようとする。
しかし、ヘテロがそれを許さなかった。
ヘテロが小規模方陣群を解き、凹陣形に部隊を再編した。
オルフィンの突撃に合わせて、包囲陣を完成させる。
「なんだ、普通の奇麗な陣形も出来るじゃないか。ヘテロはただのひねくれ者じゃないな」
どうにかヒューちゃんの攻撃から逃れたホークスの魔導士たちは包囲の突破を試みる。
『ヘテロ、包囲陣の一か所を開けて構わない。残りは逃がしてやってくれ』
『良いのか? 殲滅のチャンスだぞ?』
『無駄のことに戦力を消耗したくないからね。どっちしろ、補給が行えないんじゃ、ホークスの風の魔導士部隊はもう終わりだよ。風の魔導士は攻撃力と速度に特化している分、持久力は低いからね』
『了解した』とヘテロは返答する。
直後に包囲陣に穴が開き、風の魔導士部隊は撤退していった。
これでホークスは機動力を失った。
「ヒューちゃんがこんなに活躍するなんて…………ウエンさんの采配のおかげです」
「俺は司令官として、ヒューちゃんを適正通りに使っただけだよ。…………さて、バゲッドはこれで補給と遠距離攻撃を防御できる水の魔導士、突破力と機動力のある風の魔導士部隊を失ったわけだ。しかも土の魔導士も補給部隊が壊滅したせいで回復が出来ていない。健在なのは火の魔導士部隊だけだ」
「けど、それだともう攻め手がありませんよね?」
「そうだね。速度も耐久力もない火の魔導士じゃ単独で戦線を押し上げることは出来ない」
「じゃあ、後は時間まで守って勝ちですか?」
「…………どうしたい?」
俺の問いかけのフレアは驚く。
「完膚なきまでにホークスを叩きのめすことは出来る。でも、もしかしたら、俺でも思いつかないような奇策をバゲッドが用意していて、負けるかもしれない。そのリスクを考えれば、後は時間を潰すために遅延すればいい」
本当ならそれが正解だ。
ファイターズは万が一、負ければ、ギルドが消滅する。
本陣を落として勝とうが、消耗率で勝とうが、加点は変わらない。
ならば、より安全な勝ち方をするべきだ。
俺の個人的な感情でこれ以上、無意味な戦いをする必要ない。
フレアは難しい顔をしていた。
迷っているようだった。
「…………みんなの意見を聞いてもいいですか?」
フレアらしい答えだ。
それなら、と俺はフレアに手を差し出し出す
「分かった。一緒にみんなの意見を聞こうか」
彼女はその手を握る。
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