フレアの戦う理由
戦闘開始からすでに二時間が経過していた。
戦局は膠着状態に陥る。
「この後はどうやって攻めるんですか?」
フレアが尋ねてくる。
「んっ? 攻めないよ」
「えっ?」とフレアは声を漏らした。
「試合は最長で六時間、だから相手が何もしてこなかったら、あと四時間は何もしないさ。まぁ、敵は攻めてくるだろうけどね」
「なぜですか?」
「司令官が投了か戦闘不能にならなかった場合、消耗率で勝敗を決める」
「消耗率…………あっ!」
フレアは重大なことに気付いたようだった。
そう、ヒューちゃんとオルフィンが稼いだスコアがあるから、消耗率ではこっちが優勢だ。だからバゲッドは攻めるしかない。でもそれも難しいだろうね」
「なぜですか?」
「バゲッドはヒューちゃんの火力を目の当たりしてしまった。それに風の魔導士部隊の奇襲もね。それに補給部隊は壊滅したから長くは戦えない。特に持久力に乏しい風の魔導士部隊は一回出撃すれば、魔力は尽きる。かといって、有利な地形を手放したくないから火の魔導士を動かしたくもない。だからって、初めの戦闘で手痛い損害を出した土の魔導士だけじゃ、戦線を突破できない」
「それって詰んでませんか?」
「バゲッドの中ではそうかもしれないね。でも別に打つ手がないわけじゃない。バゲッドが本陣に温存している最精鋭を率いて、決死の覚悟で一丸の突撃を行えば、行動の限界点を迎える前に押し切られるかもしれない。…………まぁ、バゲッドがそんなことを思いつくとは思えないけどね」
型に嵌った戦い方しかできない。
劣勢を奇計・奇策でひっくり返す能力はない。
「勝てるんですね……」
フレアは吐息を漏らしていた。
しかし、安心しているというよりは、どこか残念そうだった。
「なんだい? 不満そうだね。嬉しくないのかい?」
「嬉しいですよ。でも、正直なことを言うとあなたの采配をもっと見たかったと思い始めています」
「なんだい、まだ戦いたいのかい? 君も結構、好戦的だね」
「ち、違いますよ!」
とフレアは顔を赤くする。
「だけど、絶対に気を緩めないことだね」
俺が少し引く声で言うとフレアの緩んだ表情が引き締まる。
「まだ、勝ったわけじゃない。ホークスはこの戦いに負けたら、世間の笑いものだ。そうならない為に俺の予想を超えるようなことをしてくるかもしれない」
「分かっています。すでに前線部隊の補給は済んでいます」
「………………」
「な、何ですか?」
「いや、君も中々に優秀だと思ってね
そういえば、この子はどうして『ブレイブファイターズ』の為にここまで尽くしているんだろう?
まだ若いし。将来は有望だ。
ギルドが消滅しても他で雇ってもらえそうな気がする。
ほぼ独断で俺を引き込むより、そっちの方がリスクが低い。
それが分からないわけではないだろう。
「一体君は何のために『ブレイブファイターズ』を守ろうとしているんだい?」
「…………笑わないでくれますか?」
フレアはかなり言いづらそうだった。
「笑わないよ」と俺が返すと大きく息を吐いてから、
「ファンだったからです」
「えっ?」
俺はその答えに反応できなかった。
「笑わないでとは言いましたけど、そういう冷めた反応も傷付きます!」
フレアは顔を赤くする。
「ごめんごめん、えっとファンだったギルドに入ったってこと? でもなんで、『ブレイブファイターズ』? 子供ならもっと強いギルドが好きになりそうだけど…………」
「昔は強かったんです」
それは知っている。
俺が生まれた頃、今から三十年くらい前、『ブレイブファイターズ』には黄金時代があった。
「フレアって実は四十くらいだったりする?」
その質問にフレアがピキッとしたのが分かった。
「えっ、何ですか? 私ってそんなに老けて見えますか? この前、二十五になったばかりですけど?」
その声はとても冷たかった。
「いや、そんな昔のことを言い出すから、ついね」
「元々、父が好きだったんです。その影響で私も好きになりました」
なるほどそういうことか。
何かを好きになる理由なんてそんなものかもしれない。
「父が好きなこのギルドを無くしたくないんです。いいえ、母だけではありません。こんなに弱いギルドを応援してくれるファンがいます。その人たちの為に私はこのギルドを無くしたくないんです。私だって、子供の頃は『ブレイブファイターズ』の魔導士になって、ギルドを優勝させるんだ! …………って、言っていました。でも、現実はそんなに楽じゃなくて、私には火、土、風の魔導士としての資質はなかったんです。私には『ヒーローホークス』のミュセルさんみたいに先頭に立って、敵を倒す力はありません。前線の人たちを支えることしかできません」
「君は頭がいいけど、馬鹿だね」
「えっ?」
「確かに俺たち後衛は目立たない。試合を決する能力はない。でも試合を支え、支配しているのは俺たちだ。ギルドによっては補給とか情報を軽視して前線にばかり力を注ぐが、安定して戦うのには後衛の力が不可欠だ。正直、初めはこんな弱小ギルドじゃ、シークたちがいないとはいえ、『ヒーローホークス』と戦うのは厳しいと思っていた。でも、各隊長は優秀だったし、何より君が後衛部隊をきちんとまとめていたから、俺は大博打を打つ気になったんだよ」
「ウエンさん…………」
「だから、君は誇っていい。…………まぁ、勝ったらの話だけどね」
俺のことばを聞いてフレアは笑い、「そうですね」と言う。
「さて、もう一回くらい大きな戦闘になるかな」
俺の予感は的中し、『ヒーローホークス』は再攻勢に出る。
しかし、そこにバゲッドはいなかった。
次が決戦になる。
それなのに司令官のバゲッドは結局、丘から動かなかった。
「あんたは今が劣勢だと分からないのか? いや、現実を見ていないんだな。だったら、机上で理想の戦い方を妄想していろ。…………フレア」
「は、はい、何ですか?」
フレアは少し涙目になっていた。
さっきの話、試合中に言わなかったほうが良かったかな?
何か声を掛けないといけないと考えているとフレアは両手で頬をバチーン、と叩いた。
「ど、どうしたんだい!?」
「ちょっと浮かれそうになったので気合を入れ直しました。…………ウエンさんもそんな顔するんですね」
一体、俺はどんな顔をしているのだろうか?
「女の子がいきなり目の前で自分の頬を引っ叩いたら、驚くさ。さて、フレア、試合を決める為に動くとしようか」
俺は前線のヘテロに連絡し、例の陣形の準備を指示した。
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