観戦組
私は買った酒を飲むことも忘れて試合の展開を魅入っていた。
「見事な戦術だ。それにファイターズにこんな人材がいたなんて知らなかった。ヘテロさんとオルフィンのことは知っていた。だが、あのヒューチーヤ(ヒューちゃん)という魔導士には眼を付けていなかった。なんであれほどの魔導士が今まで埋もれていたんだ……ひゃうっ!?」
いきなり首筋に冷たいものが当たった。
シークに氷入りのキンキンに冷えたコップを当てられたらしい。
「い、いきなり、何をするんだ!?」
「ミュセル、今日は観客なんだからもっと楽しんだらどう? さっきから難しい顔して」
シークはムスッとしていた。
「楽しんでいるさ。本当に楽しい」
「まったく、あんたは本当に戦うことが好きね。ちなみにあなたが評価している。ヒューチーヤだけど、致命的な欠陥があるわよ」
「なんだそれは? 素晴らしい火力じゃないか」
「ヒューチーヤの火属性魔法は威力が高いけど、精度が壊滅しているのよ。だから、本来の役割の遠距離攻撃が出来ない。それをウエンは分かっていたから、接近戦のしかも敵のど真ん中にヒューチーヤを出した。四方が敵なら狙いを付ける必要はないでしょ」
「いや、しかし、そんなのは…………」
「ええ、そうよ。基本戦術からは外れている。それ以前に敵の位置が分からなければ、あそこまでの正確な動きは出来ない。その後の行動もよ。ヒューチーヤの奮戦に注目がいっているとはいえ、ホークスの索敵を掻い潜って、風の魔導士部隊を敵の後方に回すなんて芸当、聞いたことないわ。全部、見えているとしか思えない」
「………………」
「ミュセル、何か隠しているね」
なんでバレた!?
「いや、何も知らない」
「あんたって本当に嘘が下手ね。せめて誤魔化すなら、髪をいじるのをやめたら?」
私はハッと髪を弄っていた手を引っ込めた。
「で、何を隠しているの? てか、なんであんたは秘密を知っているの?」
シークは迫る。
てか、近い近い!
「わ、分かった! 話すから!」
私はシークを手で突き放した。
「三連覇した時の祝勝会、私、途中でいなくなっただろ?」
「そうね、ウエンと一緒に…………あっ、分かった。あの時、二人で抜け出して、お酒の勢いで二人っきりの夜戦に突入。で、酔いから冷めたウエンが罪悪感から秘密をあなたに教えた。どう、正解でしょ」
「うん、正解…………なんて言うわけない!」
よくそこまで妄想できたな!
しかもその顔、絶対にからかう気で言っただろ!
「でも一緒にいたのは認める」
それを言うとシークは優しく肩を叩いた。
「いつの間にか大人の階段、登っていたのね。今日は鶏を丸ごと一羽買って帰りましょ。遅れちゃったけど、ミュセルが女の子から女になったことを祝ってあげる」
「だから、違うって! 一緒にはいた。でも私がウエンを介抱していたんだ!」
「下半身の介抱?」
「……おい、いい加減、怒るぞ」
「ごめん、ごめん」とシークは笑った。
「まったく……ウエンは酔って吐いていたんだよ。だから、水を持っていったりして、その時に呟いていたんだ。『俺には全部見えている。だけど、誰もそれを信じない』って」
「全部? それって敵味方の動きが、ってこと?」
「ウエンが嘘を言っていたとは思わなかったし、今、目の前で全力のウエンを見ているとあの話が本当だったんだって、確信が出来る」
「確かにそうかもしれないけど…………でも、あなたもウエンも迂闊よ。そんな話、誰かに聞かれたら、面倒なことになっていたんじゃない。敵ギルドに知られたらまずい情報だわ」
「それは心配ない。今のは全部、私の宿泊していた部屋での話だ」
「はぁ!?」と言い、シークは顔を近づける。
「なんだいきなり!?」
「いや、あなたね。好きな男を部屋に招いておいて本当に何もしてなかったの!?」
シークはなぜが怒っているようだった。
「別に好きじゃ…………もし、仮に、例えば、仮説として、仮定として! 私がウエンのことを好きだとして! 付き合ってもいないのに何かするはずないだろ! まずは友達から初めて付き合って、一カ月くらいしたら手を繋いで、一年くらいしたら、そ、その…………キス、とか? するものだろ?」
「あなた、それ本気で言ってる? 24歳にもなって、子供みたいなこと、本当に思っているの?」
シークが私に視線を向ける。
可哀そうな奴を見る目だった。
なんで?
「というか、あなた、男女の付き合いがキスで終わりだと思ってる? 今度、一緒に大人の保健体育の勉強する?」
「お、大人の保健体育!? じょ、冗談じゃない。それに私だって知っている。だが、その先は結婚してからだろ!」
リークは大きな溜息を洩らした。
「あなた、戦場では疾風なのに、なんで恋愛だとそんなに鈍足なのかしら。私が性格と体と見た目の良い男を紹介してあげるから、ちょっと遊んでみなさい。謹慎中でどうせ暇でしょ?」
「謹慎中にそんなことしてバレたら、新聞記者が大喜びで記事にするだろ! ウエンや君と違って、正当な理由でギルドを追放される! も、もういいだろ、この話題は! 試合に集中しろ!」
この手の話は苦手だ。
それにこれ以上、話していると本当に私の貞操が危ない。
この話は終わりだ!
終わり!!
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