一時帰還
『本当に敵の補給部隊の守備隊が剥がれて驚いた。敵の補給部隊は壊滅したよ。それと敵陣地からは脱出できそうだ』
オルフィンから通信が入った。
『それは良かった』
『…………なぁ、一応、聞くがあのまま敵本陣を奇襲すれば、勝ち切っていたんじゃないか?』
『それは無理だ。バゲッドは本陣の守りを厚くしている。攻めたところで落とせないよ。それよりもとっとと逃げて、次に備えた方が良い」
『だったら、なんで敵の本陣を攻めるふりをしてくれ、なんて指示を出したんだ?』
『ああ、すれば、バゲッドは本陣の守りの指揮に集中するからね。そうなれば、前線の動きが鈍くなる。今のホークスにバゲッドの指示無しで動ける部隊指揮官はいない。それが出来るメンバーを全員に追放か、謹慎にしてしまったからね。…………話はこれぐらいにしようか。君たちも一旦、本陣までも戻っておいで』
『了解した』と良い、オルフィンは通信を切る。
オルフィンたちがホークスの後方を引っ搔き回してくれたおかげで疲労したヒューちゃんの部隊の撤退が出来た。
「司令官、戻りました!」
元気の良い声が聞こえた。
俺はヒューちゃんのこんなに楽しそうな初めて聞く。
「お疲れ様、魔力の補給が終わったら、また出番があるからね」
「分かりました。任せてください! 敵のど真ん中に放り出して欲しいです。周りが敵ばかりって最高です…………!」
ヒューちゃんはうっとりとした顔をした。
なんか、ヒューちゃん、変な快感に目覚めていないか?
まぁ、楽しそうだからいいか。
「私の知っているヒューちゃんがどっかに行ってしまった…………」
フレアが頭を抱えていた。
「ほら、早く補給してあげなよ」
「分かってます。ヒューちゃんはとんでもない魔力の持ち主だったんですね」
火の魔導士部隊の補給が終わった頃に風の魔導士部隊が帰還した。
オルフィンも中々、優秀だ。
一人の脱落者も出さなかった。
補給さえ終わらせれば、風の魔導士部隊はまた戦える。
「それにしてもヘテロはまだ粘るのか」
俺はそのことに驚いた。
開戦からここまでずっと前線を維持している。
時には攻勢に出る素振りを見せ、敵にペースを掴ませていない。
「俺は君たちに謝らないといけないかな」
「こんな無茶をしたことに対しての謝罪か?」
オルフィンは言う。
「違う。俺は君たちの能力を過小評価していた。個々の能力は素晴らしい。だけど、一つだけ問題が出来たかな」
俺が問題と言ったので、フレアたちが不安そうな顔になる。
「あっ、心配しないで。問題っていうのは思ったよりも簡単に勝てそうって話だよ。ミュセルがいれば、面倒なことをしてきたかもしれないけどね」
あの子はこんな状況になったら、死に物狂いで攻勢を仕掛けてくるだろう。
しかし、バゲッドにはそんな思い切った戦術を取れない。
この戦場は丘を取ったほうが絶対有利、その常識を捨てられたない。
だから、前線と本営が離れた状態で指揮を取り続ける。
遠くからじゃ戦場の細かい状況が分からない。
ずっと後手に回る。
「楽に勝てるならいいじゃないか。言っとくが、私はまだ勝てる未来が見えないぞ。補給部隊は壊滅したがホークスの風の魔導士部隊は健在だ。それにさすがのヘテロさんだって、押され始めている」
「それに関しては問題ない。もう伝令を送っている。君たちの部隊にもう一回出てもらうよ」
俺は地図で作戦を説明した。
「それはちょっと複雑な動きになるんじゃないか?」
オルフィンは難色を示す。
「その点は心配いらない。ヘテロにはそれが出来るだけの力量があるし、視界の開始前に幾つかある行動パターンとして土の魔導士部隊には伝達してある」
「じゃあ、あんたは試合開始前からこうなる、って予想していたのかよ?」
オルフィンは驚いていた。
「別に難しいことじゃないさ。相手の司令官の性格と初期布陣位置が分かっていれば、簡単だよ」
「簡単って…………分かった。準備にかかる。ヒューちゃんも行けるか?」
「はい、大丈夫です。オルフィンさん! 敵をいっぱい倒しましょうね! 私、早くぶっ放したいんです!」
「……ヒューちゃん、お酒でも飲んでる?」
「そんなはずないじゃないですか。それにお酒なんかじゃあの快楽は味わえません。司令官は凄い気持ちいいことを教えてくれました」
ヒューちゃんはうっとりとした表情だった。
そして、なぜか俺はオルフィンに胸倉を掴まれた。
「おい、ヒューちゃんに何をした? なんか、ヤバいクスリとか渡してないよな!?」
「お、追いついて、オルフィン。私が保証する。ヒューちゃんは戦いに目覚めただけでお酒もクスリもやってない!」
フレアが止めに入る。
「お前がそう言うなら、信用するが…………」
オルフィンはヒューちゃんの変貌に戸惑っていた。
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