「この日記を私がうっかり落として、そして拾ったのがすごいイケメンだったら素敵だなあ」とか書いてある美少女後輩の妄想日記を拾ってしまった、イケメンでない陰キャの僕
「この日記を私がうっかり落として、そして拾ったのがすごいイケメンだったら素敵だなあ」
あ、そうですかごめんなさい。
放課後。僕は廊下の隅で一人で日記帳に謝っていた。
僕が拾ったこの日記帳。
僕の知り合いの美少女後輩の、妄想と日常が綴られていた。
毎日原稿用紙一枚分くらいの長さで構成されていて、冒頭のようなイケメンとの出会いの妄想に半分。日常に半分といった構成だ。
「はあ、はあ、どこだろ、この辺に……」
あ、きたわ知り合いの美少女後輩さん。
「美来、僕がもってるぞ」
「え、え、え。うわ。しかも中読みましたね?」
「開いた状態で落ちてたからな。他のページは見てない。あとすごい残念そうな顔しないでさすがに」
「あ、はいすみませんでした」
美来は僕から日記帳を受け取って、そして引き返そうとして、でもまた振り向いた。
「美来、今日は、何日ぶりに学校に来たんだ?」
だから僕はそう訊いて。
「一年ぶり、くらいかな、智樹」
後輩モードを解いた美来は、そう答えた。
☆ ○ ☆
「なんでずっと来なかったのか、教えてあげる」
「ああ……」
聞かずとも教えてくれるとは思わなかった。
「あ、でもまあ日記読んだ方が早いかな」
美来は、僕に日記帳を手渡した。
「読んで、いいの?」
「うん」
僕は開いた。
相変わらず、イケメンとの素敵な出会いの妄想が書いてある。
そして、何気ない生活の話が続く。
僕は数ページ読んで閉じた。
「そうか」
「うん」
とても美来は、つらかったんだ。
だから、日記は、最初の一文字から最後の一文字まで、全て妄想と現実の修正でできている。
嫌なことが全くない、理想の展開。
雰囲気は違うけど、ご都合展開で突き進むなろう小説をさらに強化したレベルだ。
「今日は、学校は楽しかった?」
「思ったよりは、マシだった」
「そうか」
僕は家族の事情で一年の間、イギリスに引っ越していた。
そしてイギリスから帰ってきて再びこの高校に通い始めた時、美来が一年間くらい学校に来ていないこと、出席数が足りなくて留年してしまったことを知った。
「ねえ、智樹、前みたいに、遊びに行こうよ」
「もちろん。あとさ……いくらでも話して。ほんと愚痴でも、なんでもいいから」
僕が言うと、美来は、初めて笑って、そして言った。
「ほんと? なら話しちゃうよ。多分すごい重いエピソードになるよ、覚悟はいい?」
「いいよ」
当たり前だ。
僕が強く頷いたのを見て、美来は嬉しそうに言った。
「あーあ、今日は過去最悪の日記になりそう」