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初依頼 ②



依頼を受けた俺とリリィは『ファルマシアンの森』へと向かい、無事にたどり着くことができた。俺達はさっそく、二人で草むらの中をがさがさ探り始めた。


 数十分後


 ……草が長い!多い!


 だんだん森を進むにつれ、草が多く獣道のような道になってきた。そのせいか、足もおぼつかなくなる。


 ゲームのときは森で連打してたら、すぐに採取できて楽勝だったけど、実際に薬草を探すってなるとやっぱ大変なんだな。全然見つかんねえし、雑草しか目に入らない。


「なんか全然見つかんないな。薬草って」


「そうだね~。でも薬草って納品箱に納品すればお金と交換できたりもするから、みんなよく探しにきたりしちゃうんだよね~」


 リリィは右手の指でお金のマークを作り、にこっと笑った。うん、かわいい。いや、違う違う、そんな事考えてる場合じゃない。


 俺は再び腰を屈めて、目の前の茂みをがさがさと探り始めた。すると後ろでリリィの叫び声が聞こえた。


「あー!!シンタ!!見てー!」


 俺が振り向くと、リリィが紅い実のついた茶色の薬草を右手に持っていた。『ラム』だ。


「うぉ!やった!それだ!!」


「やったね!!この辺『ラム』がいっぱい生えてるからもうちょっと持って帰ろ!」


 リリィはそう言って『ラム』をいくつか摘み、布で包んでからバックの中に詰めた。


「あとは『ポポ』か……」


 俺はふと、周りを見渡した。

 探すのに夢中になっていたけれど、森がさっきよりも深くなった気がする。思っていたより、奥の方まで来てしまったようだ。


「リリィ、ちょっと一回戻って探した方がいいかも知れない。戻ろう」


 そう言って俺が立ち上がった瞬間、リリィは青ざめた表情をして俺に向かって叫んだ。


「……っ!シンタ、後ろ!!」


「っ!?」


 後ろを振り向くと、身体が深緑色をした黄色い一目のモンスターが二体いた。


「こ、こいつは……」


 リィガァールというモンスターだ。


「グルルルルッ……」


 リィガァールは威嚇した鳴き声で、牙を剥き出しにしながら、こちらを睨んでいる。膝くらいまでの大きさのモンスターで、ゲーム内では雑魚キャラモンスターだった。だけど実際、目の前にいると恐怖を感じた。足がすくむ。背中にじんわり冷たい汗が滲んだ。


 ビビっている俺に対して、リリィは腰に装備していた銃を出し、その銃をそのままリィガァールに向けた。


「シンタ、下がってて!!」


 バンッバンッバンッ


 三発、リリィの銃声が響いた。


 リリィが打った銃弾が片方のリィガァールに当たったようで、一匹がもがき始めた。


 かぁ、かっこいい……

 っじゃねーよ!なに足すくんでんだ、俺!今俺、めちゃめちゃカッコ悪い主人公になってるよ!?けど今、俺には武器がない。……じゃ、邪魔にならないようにしよう。


 そんな悠長な事を考えている俺の隙をついて、もう一匹のリィガァールが俺に襲いかかってきた。


「……グルルルルル、ギュラララァァァ!!」


「……っシンタ!!」



 ここで選択肢


 ≫逃げる


 ≫素手でぶん殴る


 それはもちろん……



「うおおおおおおおっっとおおぉお!!?」



 ≫全力疾走で逃げる。


 しかし、負けじとリィガァールも追いかけてくる。


 ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい。

 追いかけてくんなよ!まじで!好きなのかよ!俺の事!!俺丸腰なんだよ、今!勘弁してくれええ!!


 ッガ!


 全力で逃げていると、俺の右足が木のツルにひっかかってコケそうになった。


 あ、俺オワタ。


 俺はぎゅっと目を閉じ、頭を反射的に守りながらそのまま倒れこんだ。


 ズザザザザーーー


 …………


 ……あれ?

 なにも、襲ってこない?


 バッ!!


 俺が勢い良く振り返ると、ギュゥゥと苦しそうな声を出しながら、血を流しているリィガァールと鎧をまとった男が立っていた。少し経つと、苦しんでいたリィガァールはパタリと息が絶え、そのまま光に包まれながら消えていった。


 …………

 ど、どどどなた様!!?

 いや、てか神か!うん、きっとそうだ。どなた様か分かんないけど、ほんとありがとうございます!!


「あ、……あぁあのの、あ、りがとうございます!」


 びびっていたせいか、口が上手く回らない。つくづく、情けねえ。


 俺がお礼を言うと、鎧の男はこちらに視線を移しそのまま兜を外した。兜を外すと、オレンジがかった茶髪にエメラルドの瞳をしたイケメンフェイスが露わになった。おい、こいつなかなかの男前じゃねえか。


「大丈夫か?その格好、旅人のヤツだよな?」


 そう言って、男は俺の腰元に目を向ける。


「え、お前丸腰だったのか!?お~まえ、丸腰なんかでこんなに奥まできたらダメだろー?いくらそんなに強いモンスターがいないからって。お前、なんでこんなところまで来たんだよ?」


「そ、そっすよね、すんません。実は『ポポ』っていう薬草を探す依頼を受けて、この森に来たんですけど、なかなか見つからず夢中になってたら……いつの間にか……」


 俺はだんだん声を小さくさせながら男に説明した。

 すると、遠くで俺の名前を呼ぶリリィの声が聞こえてきた。


「……ター、シンター!?……っあ!いた!大丈夫!?怪我は?どこもなんともない?」


 リリィは走って俺の方へと駆け寄り、心配そうに怪我をしてないかどうか俺の体をペタペタ触りまくった。


「……っり、リリィ!お、おおちついて!!どこも怪我してないから!あ、ちょ!まっ……!転んでちょっと膝擦りむいただけだから!」


 ペタペタと俺の体をチェックするリリィの横で、鎧の男が俺の膝をつついた。


「ん?あ、ほんとだ。血が出てら」


「いっ!?」


「あ、わりわり。これ使えよ」


 鎧の男……略してヨロ男は青緑の液体が入った小瓶を渡してきた。これは、回復アイテムのヒールだ。たかが擦りむいた程度で、この回復アイテムは勿体ないってか、贅沢すぎないか。


「いや、擦りむいた程度だし、ヒールなんてアイテム勿体っすよ、ほんとにだいg…いいいててて!!!」


 ヨロ男はさっきよりも、更に強く俺の膝をつついた。


「ちょ、ちょっとやめてよ!!」


 思わずそれを、リリィが止めに入る。しかし、痛がる俺を見てヨロ男はくっくくくと笑い始めた。


 こいつ、鬼畜か?悪魔か?


「いや、悪い悪い!そんな体がよじれるほど痛いんだろ?なんか頭だけ守って、派手にずっこけてたしな。遠慮なんかせず使ってくれよ!」


 ヨロ男はそう言って小瓶の蓋を開け、俺の膝に少しずつヒールを垂らしていった。すると、パァっと膝の上に光が浮かび上がり、すぅーと怪我が消えていった。痛みも消えている。


「な、治った……」


「なんだよ、初めて見るような顔して。ヒール使ったんだから当たり前だろ?」


 いや、初めてなんだよ。こんな一瞬で怪我が治るのなんて、ファンタジーな世界だけだわ。この世界きてから初体験ばかりだわ。


「俺はライアン。この国の近衛騎士団に入ってる。俺の主君であるソレーユ国の王、そして、その王が守ろうとしているこの国のすべてを守る義務が俺にはある。まあ、なんか助けてほしいことがあったら、なんでも言ってくれ。お前、名前は?」


 ヨロ男……改め、ライアンはそう言って立ち上がり、俺に手を差し出した。近衛騎士団……だから鎧をつけているのか。俺は差し出してくれた手を掴み、立ち上がった。


「……えっと、信太です」


「シンタか。よろしくな!あ、お前ら『ポポ』探してるんだろ?さっき俺、いっぱい採ってたから分けてやるよ。それを持ってきな!」


 ライアンはにかっと笑い、腰元についている小さなバックから『ポポ』を差し出した。


「え!そんな、いいの?」


 リリィが思わずライアンに問いかけた。


「おー、いっぱい採ってきちゃったからな~!持ってけ持ってけ~!」


 ライアンはそう言って、はははははーっと笑い飛ばした。おい、なんだよ。鬼畜とか悪魔なんて思ってごめんな?めちゃめちゃいい奴じゃん?


 俺とリリィは「ありがとうございます」とお礼を告げ、『ポポ』を受け取った。


「てか、たぶん年近いくらいだろ?敬語じゃなくていいよ」


 そう言って、イケメンで爽やかな笑顔を俺に向けた。おいおい、そのお前の笑顔。向けたのが俺じゃなかったらきっと……惚れてる、ぜ?☆


「あ、あぁ。わかった。本当にありがとう。あ、これから酒屋に依頼完了の報告をしに行くんだけど、もし良かったらその報酬でなにか奢るよ」


「え、いいのか?……実は朝から何も食わずに来ちゃって腹減ってて」


「ははっ、それじゃあ……さっそく酒屋まで行こうか?」




 こうして初依頼をなんとか無事終えれた、雑魚キャラ童貞信太は、リリィと新しく加わったライアンとも一緒に酒屋に向かうこととなった。







 

読んでいただき、ありがとうございました。


爽やかイケメン登場です。

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