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第56話 悪役令嬢の困惑

「何故…何故わたくしがこんな事を……」


書類にペンを走らせながら、わたくしエリザベータ・フォン・アルヴァハイムはひたすらに困惑していた。


何もかもがゲームの通りには進まないとは分かってはいるものの、今回ばかりは逸脱が過ぎるのではないのかしら。

このイベントはエリザベータがクラウス様とアリスに絡んでクラウス様がそれを追っ払って、エリザベータの出番はそこでおしまいだったわよね?

そして本当ならば今頃わたくしは屋敷へと帰ってゆっくり紅茶でも飲みながら、クラウス様から冷たくあしらわれた心の傷を癒している筈だったのに。それを考慮してカルラは今日の晩餐がシーフードのクリームシチューになる様に取り計らってくれたのよ。我がアルヴァハイム侯爵家の料理人(シェフ)の作るクリームシチューは王都の港で水揚げされた新鮮な魚介類がふんだんに使用されたわたくしの大好物。こういった細やかな気遣いがカルラの優秀な侍女たる所以(ゆえん)なのよね。

だというのに悪役令嬢のこのわたくしが攻略対象達と協力してせっせと学院会計の当期実績(見込み)を纏めているですって?

このイベントは仕事とは名ばかり、本来クラウス様とアリスふたりきりでの甘酸っぱいものとなる筈だったというのに、クラウス様はアリスに対しても淡々と事務的な説明をするだけだし、ウィルフリードとギルバートという余計なおまけまで付いて来るし、一体何がどうなっているのかしら」

「『余計』だなんてひどいなぁ」

「ギャァッ!!」


横で同じ作業をしているウィルフリードから声をかけられ、わたくしは驚きのあまり飛び上がった。

ウィルフリードはそんなわたくしを見て「凄い声ですねぇ」とか言いながら笑っている。

な、なに、なんなの、魔力の高い人間は他人の心まで見透せるとでもいうの!?


「ウィルフリード貴方(あなた)、わたくしの心を読んだわね!?」

「声に出ていましたよ」

「嘘でしょ!!!」


狼狽するわたくしを余所(よそ)に、ウィルフリードはわたくしが受け持っていた書類を引き抜いて眺めた。


「計算違いは無いみたいですね。よくもまぁ、あれだけ話しながら計算できるものです。感心しますよ」


感心していないで、教えてよ!

「思考が外に漏れていますよ」って!


「エリザベータ嬢の協力のおかげで今日は思ったよりも早く作業を終える事ができそうです。紅茶はどうか分かりませんが、クリームシチューには間に合うと思いますよ、良かったですね」

「……ちょっと待って?わたくし、どこから声に出していたの?」

「ええと、『逸脱が過ぎる』でしたっけ」

「最初から!!!」


もんどりうって倒れ込みたくなる気持ちを必死で抑えつつ、わたくしは頭を抱えてうーうー唸っていた。

これが自宅であったなら、寝台(ベッド)に飛び込んでドタンバタンと転がり回るところである。


「それで?『攻略対象』って何です?」

「あー!あーあー!!知らない知らない!!!」


ウィルフリードは興味深げに(はしばみ)色の瞳をこちらに向けて来るが、耳を塞いでぶんぶんと頭を振りながら黙殺する事にした。力技である。


「マジかよー。エリィちゃん、そんなに進んでんの?俺、全然終わらねぇ」


向かいの席ではギルバートが焦茶の髪をかきあげながら書類と睨めっこをしている。

わたくしのピンチに見向きもしないなんて薄情な男ね。存分に苦しむが良いわ。


クラウス様とアリスは鍛錬の為に席を外しているので、今現在、生徒会執務室で業務にあたっているのはわたくしとウィルフリード、ギルバートの3人。


クラウス様とアリス、『ふたりでの個別指導』イベントがこの時期まで続いている点についてもゲームの進行とは違っている。とっくに終わっている筈のイベントだ。

こちらのイベントが機能しなくなった分、そちらでバランスを取っているのかしら……そうだと良いのだけれど……。


『エバラバ』のゲームにはない事態が頻発する所為(せい)で何だか不安になって来る。


大丈夫よね?

精霊祭はもう目の前。

クラウス様の暗殺は防げるわよね?

その為に、ここまで頑張って来たのよ。


「戻りましたー!」


鈴を転がす様なアリスの声と共に執務室の扉が開き、わたくしはハッと顔を上げた。

そしてギョッとした。


「ア、アリス!?どうしたのよその格好は!」


アリスはこの部屋を出た時とは違い、男物の制服に着替えていた。それでも可愛く見えるのは流石だが、わたくしが驚いたのはそこではなかった。


「どうしてそんなにボロボロなの!」


後ろに纏めた蜂蜜色の金髪や、制服―――顔にまで!―――土汚れが付き、足取りも少しおぼつかない。

アリスの姿は正に「激しい鍛錬を終えた」という言葉に相応しく、ズタボロだった。


「リーゼ様ぁ!鬼です、鬼。師匠は鬼!今日の師匠はいつにもまして容赦無いんです!きっと私が護衛の人を急がせてリーゼ様とのふたりきりを邪魔したから根に持って……」

「ちょ、ちょっと待って。アリス、師匠って誰?」

「あっ!殿下です!クラウス殿下」

「は!?」


クラウス様の事を"師匠"って呼んでるの!?


し、"師匠"。

乙女ゲームにあるまじき響き。


わたくしは叫んだ。


「師匠って何!!!」

「あ、だから、クラウス殿下の事です」





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