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第54話 想定外の事態

「ええと、アリスに、生徒会の業務を手伝わせるのですか?」


結局何も思い付かず、出てきた話題は心底どうでもいいものだった。

態々(わざわざ)聞かずとも知っている。『エバラバ』でも知っているし、アリス本人から聞いても知っている。

聞いたところでどうするの、わたくし。


「そうだ」


いつも通りの淡白さで簡潔に答えるクラウス様。

それはそうよね。そうなのだから「そうだ」としか言いようがないわよね。


「生徒会の負担を減らす為、来期からは体制を改めるつもりでいるので書類仕事が多い。王宮からは『愛し子』を重用するよう言われているし、本人の能力や人格にも問題はないので、補佐を頼むには適任だろう」

「そうですわね」


イドニア王国で貴族に生まれた者は、決まった年齢には魔術学院に在籍する事が義務化されている。

貴族社会の縮図とも言えるこの学院を生徒会会長として纏め上げる事は、ある意味『王様』の予行練習の様なもの。クラウス様が生徒会会長を務める理由もそこにあるのだ。


貴族の子女の情報を預かる立場から、本来ならば事務職員に任せるような業務までをも担っている為、単純に仕事が多い。

更には、王室の人間が在学しない期間は生徒の中で最も身分の高い者が会長を務める規定になっており、情報管理の観点からも現行の体制を問題視する声は以前からあった。


来期から(しばら)くは王室の人間が在学しない期間が続くので、ご自分の在学中に体制を整えようという考えなのですね。流石です、クラウス様。


クラウス様ってば滅多に表情を変えないものだから冷たい方だと誤解されがちなのだけれど、本当は優しいのよね。

これが『エバラバ』のクラウス様だったら「用はそれだけか?」とか言ってサッサと去って行ってしまいそうなものなのに、きちんと説明してくれるし。

まっクラウス様を幼少の頃より見つめ続けてきたわたくしにとっては分かり切った当たり前の事なのですけれどね。クラウス様が優しくて、有能で、格好良いという事はね!


しかしクラウス様があまりに理路整然と説明してくれるものだからつい「そうですわね」とか同意してしまったけれど、悪役令嬢としてはこれでいいのかしら。

『エバラバ』で考えるのなら一応まだイベントは終わっていないのよね。


えーとえーと、『エバラバ』のエリザベータはどうしていたかしら。

「生徒会のお手伝いでしたら、わたくしにだって出来ますわ!」とか言って食い下がるも、「話なら後にしてくれ」とクラウス様からは流されるのだったわよね。

良し!これで行こう!


「あの……生徒会のお手伝いでしたら…わたくしにだって出来ますわ……」


テンションが定まらないまま話し始めてしまった為に、何だか気弱な声が出てしまった。

だってだって、話の流れというものがあるのよ!

普通に同意した後に、いきなり怒り出すのも変じゃない!

しかも拒絶されると分かっているのに強気に出れる程の勢いなんて、もう残ってないのよ!


「……」


どうしよう、クラウス様が黙っちゃったわ!


クラウス様はその秀麗なお顔を変える事なく、やや時間を置いてから口を開いた。


「なら、頼む」

「えっ?」

「人数は多い方が助かる。人を選ぶ業務だが、リーゼであれば問題ないだろう」

「ええっ!?」

「丁度迎えも来た。行くぞ」

「ええぇっ!!?」


執務室で待機していた護衛が迎えに来たのだろうか、小走りにやって来る。

クラウス様は驚愕の悲鳴を上げるわたくしの様子は見事にスルーして、護衛の方へと歩き出した。





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