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第5話 クラウス王太子の茶会

"クラウス・グランツ・フォンシュルツェブルク

 イドニア王国の王太子。

 常に冷静で、滅多に感情を表に出さない。

 エリザベータという婚約者がいるが、

 彼女の思い込みの強すぎる性格に内心辟易している。


   出典:『evergreen(エバーグリーン) lovers(ラバーズ) 公式ガイドブック』"


そして主人公(ヒロイン)と出逢い交流を深める内に、彼女の温かな優しさにいつしか惹かれていくのだ。

温かな優しさ…『学院に迷い込んだ野良猫を追い立てている』と噂されているエリザベータとは真逆のものである。


そうは言っても婚約者である以上、内心辟易しているわたくしエリザベータ ・フォン・アルヴァハイムとも、こうしてお茶会の席を設けてくれるクラウス様なのです。


朝夕は肌寒くなってきたが、今日の様に天気の良い昼下がりはぽかぽかと暖かい。

王宮の庭園は銀杏(イチョウ)金木犀(キンモクセイ)秋桜(コスモス)など様々な種類の庭木や花で美しく彩られていた。


お茶会の為に用意されたテーブルの向かい側で、庭園の銀杏(イチョウ)の黄にも負けない鮮やかな金糸雀(カナリア)色の金髪―――クラウス様が、紅茶のカップをソーサーに置き、藍色の瞳をこちらに向ける。


「久しぶりだな。息災だったか」


学院に通う様になってからはお茶会の回数もめっきり減ってしまった。「忙しくなったから」とは言うが―――実際に忙しいのだろう、王宮での公務に加え、生徒会の仕事も少なくはない―――エリザベータ(わたくし)とのお茶会が億劫だというのが本音なのだと思う。


でもどうかな。『エバラバ』でのエリザベータ程には鬱陶しがられてはいないかもしれない。わたくしは確かにエリザベータだが、前世の記憶があるからかゲームのエリザベータとは性格も違う。だってわたくし、思い込み激しくないものね!


「はい。クラウス様もお元気そうでなによりですわ、おーっほっほ」

「その笑い方はやめろ。近くでやられると頭に響く」

「ハイ」


やっぱり鬱陶しがられているかもしれない。


「あと、その扇もしまえ。顔が見えない」

「ハイ」


くっ…扇を封じられるとは……!


渋々と派手ッ派手な扇をたたんでテーブルに置き、紅茶のカップを口に運ぶ。


ちらりとクラウス様を見やると、藍色の瞳と視線がぶつかった。

慌ててカップに目を落とすが、顔がじわじわと熱を持っていくのがわかる。


…クラウス様……今日も格好良すぎる………!


我が家にある数々の肖像画(ポートレート)達も、やはり本物の魅力には敵わない。「肖像画なんぞより現物を拝め」とカルラは言うが、それができたら苦労はしないのよね。

学院では学級(クラス)が違うのでさほど接点はない。たまに見かけた時には「あぁ…今日も素敵…」と遠くから眺めている位なのにこんな近距離で一対一。緊張しないわけがない。

ましてや肖像画(ポートレート)にしている様に穴が空く程見つめるなんてムリ。ほんとムリ。恥ずか死ねる。不敬だし。

婚約して以来、定期的なお茶会、デビュタントのエスコート、夜会やダンスパーティ等々触れ合いの機会は何度もあったのに、慣れないものは慣れないらしい。

二次元だった最推しが三次元になった衝撃がこれ程とは。

これでも扇ごしならいくらかは緊張も紛れるのに…見つめ合うと素直にお喋りできないのよ!


とは言えもじもじしているばかりでは不審者だと思われてしまいそうなので、今日の紅茶の産地だとか茶器の話だとか学院生活の事だとか、あれこれ会話を紡いでいく内に気持ちもすこし落ち着いてきた。

クラウス様の反応は「そうか」とか「そうだな」とか概ね素っ気ないものだが、そういう性格なのであまり気にしない。むしろそんなところも好き。単にわたくしに興味がないだけかもしれない。


そういえば『エバラバ』的には進行具合はどうなのだろうか。


「アイメルト様はいかがですか?クラウス様とウィルフリード様とで魔術を指導しているとうかがいましたわ」


ウィルフリードというのはヴァールブルク侯爵家の嫡男。クラウス様の側近で、魔術にも明るく次期宰相と噂される有能な男だ。性格は悪い。

整った顔立ちと柔和な雰囲気からクラウス様同様女性人気の高いウィルフリードは『エバラバ』の攻略対象でもある。


そんなふたりから個別指導を受けているアリスは女生徒からの嫉妬の視線を浴びてしまっているが、攻略対象(イケメン)がついて回るのは乙女ゲームのヒロインの宿命だ。仕方ない。


「ああ。魔術の制御も問題なくなってきた。(じき)に学院の授業だけで事足りる様になるだろう」

「まあ!それは良かったですわ」


現在の時期とゲームの進行度を照らし合わせて考えてみると、順調に進んでいる様ね。


『エバラバ』にもこのイベントがある。

初めのうち魔術が上手く使えないアリスは、授業とは別にクラウス様とウィルフリードから魔術の制御方法を指導される事になるのだ。

それによりアリスの〈魔術〉ステータスが一定以上になり魔術の制御ができる様になると、この『ふたりによる個別指導』イベントは終わる。クラウス様もそう言っているが、ゲーム通りならばその後にもクラウス様かウィルフリード、()()()()()()()と個別指導は継続する筈だ。

彼女に興味を抱いたクラウス様とウィルフリードが、もっとアリスとの時間を持ちたい為にそう提案して、アリスはそのどちらかを選ぶ、という流れになるからだ。

『ふたりでの個別指導』イベントは好感度の上昇もかなり高いので、クラウス様かウィルフリード、どちらかのルートを狙っている場合には必須。


悪いわね、ウィルフリード。

貴方もアリスに気があるのかもしれないけれど、ウィルフリードルートには行かせない。性格悪いバチが当たったと思って諦めてちょうだい。いい気味だわ。


アリスには、クラウス様ルートのハッピーエンドを目指してもらう。





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