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第48話 ミュラー伯爵令息の支援

クラウス様に「生徒会の手伝いを」と連れて行かれたギルバートは、結局その日一日教室には戻って来なかった。


「…という事は、仕事とは言え一日中クラウス様と一緒だったという事?キーッ!羨ましいわ!ギルバートの癖に!!」


悔し紛れに手巾(ハンカチ)を噛みながら唸るわたくしエリザベータ・フォン・アルヴァハイム。


「リーゼお嬢様。早速手巾をご活用下さって嬉しい限りでございます。用意した甲斐がございました」


わたくしの半歩後ろ、学用品等の入った鞄を手にカルラが言った。


そう、わたくしが噛み締めたこの手巾(ハンカチ)

「悪役令嬢が悔しさを覚えた際に噛む用」として、カルラに用意して貰ったものなのである。


一見何の変哲もない可愛らしい小花が刺繍された手巾(ハンカチ)だが、この一枚には、何人もの職人の汗と情熱が詰まっている。

この一枚を産み出す為、カルラ自ら、そして時にはわたくしも交え、アルヴァハイム侯爵家と親交のある縫製工房と吟味に吟味を重ねた。

伸縮性は低いが強度のある糸を探し出し、王宮騎士団の布製防具等に使う特殊な織り方を用いたその結果、手触りに若干の難はあるものの張力に強く非常に伸びづらい(手巾(ハンカチ)にしては)強靭な逸品が世に産声を上げたのであった―――


「ただ、まだ少しぎこちなさが感じられますね」

「うっ…だ、だって、普段の生活で手巾を噛む事なんてないのですもの……」


普通、侯爵令嬢は手巾(ハンカチ)など噛まない。

伯爵令嬢も子爵令嬢も、というかわたくしは「悔しくて手巾(ハンカチ)を噛んでいる人」自体を現実で見た事がない。

今までは手巾(ハンカチ)を噛む事のない人生だったので、少し練習が必要なのかもしれないわ。

(ちな)みに手巾(ハンカチ)として使う手巾(ハンカチ)は、それはそれとして別に持っている。


「こんな所で何やってんだよ、アンタ達は」


呆れた様な声に振り返ると、ギルバートが立っていた。


「噂をすれば……!出たわね、ギルバート」

「あれー?俺の事、噂してくれてたんだ?嬉しいなー。俺に会えないのがそんなに淋しかった?」


朝の不自然な挙動が嘘の様に、ギルバートはすっかりいつも通りだった。


「それでふたり共、どうしてこんな所にいんの?」


ここは学院と、学院に併設された図書館を繋ぐ渡り廊下。

春先に寒さが緩んで来たこの頃ではあるが、〈火〉の魔石の設置されていない廊下は少し肌寒い。


「図書館へ資料を探しに行くのよ。貴方(あなた)こそ、こちらは帰宅とは逆方向ですわよ」

「生徒会の手伝いからやーっと解放されて、荷物取りに教室に向かってたら、こっちに曲がるあんた達が見えたからさ」


わざとらしく溜息を()くギルバートの手には、何かの本と書類の束が、結束帯(ブックバンド)で纏められて収まっている。


「生徒会のお仕事って忙しいのね……クラウス様はまだ学院に残っていらっしゃるの?」

「あー。殿下なら、もう王宮に戻ったよ。なーんかこの時期は、書類仕事が多くて忙しいらしーね」


生徒会の仕事は、学院の環境保全や行事の主催に加え、学院の運営に直接関わるものまである。

王室の人間が生徒会会長を務め、役員の選任も会長が直々に行うのはこれが所以だ。


「つーか驚いたよ。殿下ってバカみたいに仕事早いんだな。俺の手伝いなんて必要無いって」

「だからと言ってクラウス様にばかり任せていたらクラウス様の仕事が減らないでしょう。王太子の公務だってあるのよ。クラウス様の負担を減らす為に、馬車馬の様に働きなさいよ」

「エリィちゃんはもっと俺に優しくしたらいいと思う……」


なんやかんや言いつつ、今度はわたくしの手伝いにと図書館まで付き合うギルバートは結構なお人好しだと思う。


王国立図書館では豊富な蔵書が整備されており、休日には一般にも開放されている。


学習や検索の為の個室が用意されているので、貸し出しを申請してその部屋へと入ると、ギルバートが少し遠慮がちに口を開いた。


「あーあのさ、エリィ……」


部屋の中、設置された机の上に、ギルバートが持っていた本を置く。

結束帯(バックバンド)を外し、挟む様にしてあった書類を退けると、かなり古ぼけた装丁の本の表紙が見えた。


「これ……?」

「これさ、魔石の研究の本なんだけど、『主君の石』と『従者の石』についても記されてる」

「はっ?」





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