第45話 ハンナのお茶会②
茶卓子には、ハンナ手ずから淹れてくれた紅茶。
3段のケーキスタンドには、軽食のサンドイッチとお菓子、果物が、それぞれ彩り良く盛り付けられている。
「あら、このスコーン、『シュネーバル』のものかしら?」
「よく分かりましたね、エリザベータ様。これ、アリスが持って来てくれたんですよ」
「アリス様はヨハン・ビューラー様のご両親と仲がよろしいのね」
「はい!おじさんもおばさんも、私が小さい頃からすごく良くしてくれて……」
知ってる知ってる。
製菓店『シュネーバル』の息子であり『エバラバ』の攻略対象でもあるヨハンは、アリスとは幼い頃から家族ぐるみでの親交があったのよね。
だから、ヨハンの両親は7年前の大火で両親を亡くして教会に引き取られたアリスを心配して、普段から何かと気にかけてくれているのよね。
『evergreen lovers 公式ガイドブック』で読んだわ。
前世では「ゲーム内での設定」でしかなかった事柄を、こうして実際に本人の口から聞くと、なんかこうウキウキと嬉しい気持ちになるわね。
「エリザベータ様、ヨハンのこと、ご存知だったんですね」
「まっまぁ、同じ魔術学院の生徒ですからね。貴族でなくとも名前くらいは知っていますわ」
少し意外そうな様子のアリスに、わたくしは内心慌てつつ答えた。流石に「ゲームのガイドブックで読んだから知ってる」とは言えない。
因みに、アリスが『シュネーバル』のスコーンを持って来ていた様に、わたくしも手土産を持参している。
我が家の菓子職人が作った様々な種類の一人用サイズのケーキが、ファウルハーバー子爵家の使用人によって長角のフラットプレートに丁寧に並べられて茶卓子に置かれた。
「アルヴァハイム侯爵家は料理人も菓子職人も一流の腕前って聞いてたけど、本当なんですね!」
「ふふふん。当然ですわ」
並んだケーキを見て、ハンナが目を輝かせる。
「アリス見て、この飴細工!繊細で、芸術作品みたい」
「可愛い!こっちは蝶で、こっちは薔薇……綺麗で、食べるのがもったいないくらい」
ファウルハーバー子爵家でのお茶会は、なごやかな空気の中行われていた。
ハンナという人物はお茶会の進行役としてとても優れている。
あけすけな物言いでよく喋る彼女だが、かといって無遠慮な訳ではない。
憚りなく踏み込んで来る様で、その実、適度な距離感を保ちつつ、こちらから話を引き出したり、何故かもじもじしているアリスとわたくしが会話する様に水を向けてみたりと、全体的に気を配ってくれているのが感じられた。
バランス感覚が良いのだろう、交友関係が広く学院内の人間関係に精通しているというのも頷ける。
「やるわね。流石はサポートキャラだわ」
「あーっエリザベータ様、前もそんなこと言ってましたよね。『サポートキャラ』って何なんです?」
「フッ……『サポートキャラ』というのはね。『サポート』する『キャラ』の事よ」
「分からない!!」
そしてわたくしは、一見落ち着いて会話を楽しんでいる様に見えて―――
「あの時のギルバート様は格好良かったよねー!『俺が運びます』なんて言って、アリスの事を軽々とお姫様抱っこして!」
「気を失ってたから憶えてないけど…私のこと、医務室まで運んでくれたんだよね」
「そうそう!ギルバート様って、アリスのこと結構気にしてるんじゃないかなぁ」
きたきたきたきたァーーー!
『ハンナのお茶会』!好感度チェック!!
乙女ゲーム『evergreen lovers』内でも、ハンナとのお茶会が定期的に開かれる。
攻略対象の好感度によってお茶会でのハンナの台詞が変化するので、プレイヤーはステータスの様に数値として見る事が出来ない好感度を、この台詞で判断するのだ。
このイベントが『ハンナのお茶会』。
攻略サイトにあった解析データによると、
好感度60〜70で「〇〇様って、アリスのこと結構気にしてるんじゃないかなぁ」
好感度70〜80で「〇〇様って、アリスのこと良く見てるよね」
好感度80以上で「〇〇様って、アリスのこと………ふふっ何でもない!」
といった感じで台詞が変化していく。
今の台詞を鑑みるにギルバートのアリスに対する好感度は60〜70。可もなく不可もなく。程々に好意は持っている、という所かしら。
まぁギルバートの事はどうでもいいわ。
重要なのは、ゲームでしか聞く事はないと思っていたハンナの台詞を今!ここで!生拝聴した!という事よ!!
そう、わたくしは、一見落ち着いて会話を楽しんでいる様に見えて、内心では打ち震える程に興奮していた!
だってだって、『ハンナのお茶会』よ!?
アリスはゲームの通りにハンナとは親友だけれど、わたくしはやっぱりゲームの通りに悪役令嬢だから、ハンナからお茶会に招かれるなんて思ってもみなかった。
それがこうして実際の現場に立ち会えるだなんて、感謝感激雨あられ。
雨が降ろうが槍が降ろうが、わたくしに「お茶会の招待を断る」だなんて選択肢は、始めからなかったのだ。




