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第16話 悪役令嬢の妨害

アリスをクラウス様ルートに誘導する為にわたくしがすべき事は、ゲームのエリザベータを演じる事ともうひとつ。

クラウス様以外の攻略対象へのルートを潰す事だ。


乙女ゲーム『evergreen(エバーグリーン) lovers(ラバーズ)』の攻略対象は4人+隠しキャラ2人。


まず隠しキャラ2人について。


片方はわたくしが裏で手を回し、そもそもこの学院には現れない。


もう片方は『出会いイベント』の発生条件に「〈礼節〉ステータスが20以下であること」が含まれる。

〈礼節〉を20以下まで下げるのはなかなか大変で、意識して進めないとイベント発生時期までにこれを達成するのは難しい。


『エバラバ』では、ステータスの数値によって主人公(ヒロイン)アリスの性格も変化する。

その影響が顕著に現れるのが〈礼節〉で、〈礼節〉が下がる毎にアリスの口調は荒くなるし、乱暴な振る舞いも増えていく。

そしてとうとう〈礼節〉が20まで下がった暁には、アリスの立ち絵の瞳からハイライトが消え、表情には影が落ち、「こんな下らない事してらんない」と言い放って学院から出て行ってしまう。怖い。

〈礼節〉と一緒に希望まで失ってしまったのだろうか。

ある意味自由度の高いゲームと言えるかもしれない。


現在のアリスを見るに〈礼節〉が20以下とは思えないし、念の為『出会いイベント』発生時期にカルラにイベント発生場所を張って貰ったが、アリスや攻略対象が現れた形跡は見つからなかった。よって大丈夫だろう。


そして、クラウス様を除く3人。


まずはギルバート・フォン・ミュラー。

ミュラー伯爵家の二男として生まれた彼は優秀な兄に対して劣等感を抱いており、比べられる事への反抗心から敢えて放蕩息子を演じていた。

様々な女性と浮名を流しながらも常に心に虚しさを抱えていたが、興味本位でアリスに近づいた事で彼女の優しさに癒され本当の恋を知り、自分と向き合う様になっていく―――というのはゲームの中の話で、前世の記憶を持つギルバートに『エバラバ』で語られる様な劣等感はないらしく、優秀さ故に気苦労の絶えない兄に対してむしろ同情的だ。

つまり一見『エバラバ』通りの性格に見えるギルバートは「放蕩息子を演じている」のではなく、正真正銘の放蕩息子という事になる。なんだかゲームよりも状況が悪化している気がする。

「顔が良いっていいね!女の子がみんな優しくしてくれるんだ」というのは彼の言。前世での苦労が偲ばれる。


ギルバートはこちら陣営に引き込んだので心配はない………筈だが、持ち前の軽さでアリスに手を出さないとも限らないので用心はしておくべきかもしれない。


次に、ヨハン・ビューラー。

平民で、ひとつ歳下のアリスの幼なじみ。

〈火〉の魔術の才能がある彼は、アリスの口添えで入学を許可され、共に学院に通う事となる。

互い一人っ子で姉弟の様に育って来たアリスに対して淡い恋心を抱いているが、攻略を進める事で次第にそれをはっきりと自覚していく。


ヨハンの家は王都で製菓店を営んでおり、7年前の大火で焼け落ちた店を何とか建て直したものの、以降経営は振るわず閉店の危機に瀕していた。

これを解決すべくヨハンは新メニューを考案するのだが、それにアリスが協力するというイベントがある。

何回かに分けて継続的に発生するこのイベントは、クラウス様やウィルフリードの『ふたりでの個別指導』に匹敵する程の好感度上昇を見込めるもの。逆に言えば、これさえ潰してしまえばヨハンルートの目はないと言っていい。


ヨハン…貴方(あなた)に恨みはないけれど、その淡い初恋、自覚する前にわたくしがぶっ潰して差し上げましてよ!


イベントを潰す―――その為には、そもそもイベントが発生しない状況を作り上げてしまえばいい。

そう考えたわたくしは、アリスが学院に編入する3年程前に、密かに計画を実行に移した。

屋敷の使用人を代わる代わる―――時には人を雇い―――ヨハンの両親が営む製菓店『シュネーバル』へと差し向け、商品を購入させる。勿論アルヴァハイムの名は伏せてだ。

これを続ける事によって店は潤い、アリスが編入する頃には閉店の危機など訪れないという寸法よ!

侯爵家の『財力』、そして「あの店のお菓子が食べたい!でも庶民向けのお菓子を食べているなんて周りに知られたくない!」という我儘を通す侯爵令嬢の『権力』。このふたつが揃う事で初めて可能となる、完璧な作戦よ。


そして、この作戦は想定以上の成果を結んだ。

大火による損害から厳しい資金繰りの中なんとか持ち堪えていた『シュネーバル』であったが―――元々潜在能力(ポテンシャル)を秘めていたのであろう―――利益が上がり余裕が生まれた結果、店に並ぶ品数が増え、それによって客が集まり、客が増えた事がまた別の客を呼び―――何という事でしょう!店は大繁盛、城下で話題の人気店に!

噂が噂を呼び、今では高級菓子にはない素朴な味にハマった貴族の顧客も密かに増やしているらしい。


最早わたくしが直接手を下すまでもないと作戦を終了した後も、我が屋敷の使用人達は「定期的に食べたくなる味」と『シュネーバル』に通い続けている。

お蔵入りにするのも勿体ないので、本来アリスとヨハンが発案する筈だった新メニューを使用人を通して店に伝えた所、何と商品化。

『エバラバ』で見た『シュネーバル』のチョコクーヘンを実際に食べられるなんて夢みたい…!

夢みたいな美味しさでございましたわ。


という訳で、重要イベントが始まる事なく終わってしまったヨハンルートも心配ない。


残るは―――


「おや、お久しぶりですね、エリザベータ嬢」

「まあ、ご機嫌よう、ウィルフリード様」


ウィルフリード・フォン・ヴァールブルク。


この男だ。





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