第1話 悪役令嬢の登場
イドニア王国立魔術学院。
この国で貴族に生まれた者は、16歳になる年から2年間ここで学業に励む。
わたくしエリザベータ・フォン・アルヴァハイムもその中のひとり。
今日の授業を終え、帰り仕度を整えながらふと教室を見渡すと、4人の令嬢の後ろ姿が目に付いた。
ひとつの机を取り囲む様に立ち並んでいる。あの席は……
「アイメルトさん。少しいいかしら」
4人の内のひとりの伯爵令嬢の声。
話しかけられた女生徒は「は、はい…」と戸惑った様子で立ち上がった。
アリス・アイメルト。
ついこの間編入してきたばかりの、この学院では珍しい平民の少女だ。
令嬢達の背中に隠れて彼女の表情は見えないが、彼女から見た光景は見てきた様に分かる。
というか見てきた。
アリスを取り囲む令嬢達の様子はとても「新しいクラスメイトと仲良くしましょう!よろしくね!」みたいな感じではない。さしずめ貴族達の通う学院に生意気にも紛れ込んだ平民の娘に一言釘を刺してやろうといった所か。
ならばここはわたくしの出番ね。
すっと立ち上がり彼女達の所へ步を進める。
それはアリスを助ける為ではなく。
「エリザベータ様…!」
こちらに気付いた令嬢達がさっと道を開け、貴族の礼をする。
わたくしは手に持っていたヒラッヒラで派手ッ派手な扇をバシッと開き、
「おーっほっほっほ!御機嫌よう、アイメルト様?」
令嬢達を両脇に従え高らかに笑った。
悪役令嬢エリザベータ・フォン・アルヴァハイムのお出ましだ。